孤児だったけど村ぐるみで育てられた俺は逞しく成長できた。だからあえて村を出てみることにした。

茶電子素

第1話 旅立ち

俺は田舎育ちの快活マッチョだ。

孤児だったが村ぐるみで育ててもらった。


子供のころから朝から晩まで働きまくって、

学校なんて行く暇もなかったが


『まあ筋肉があれば、なんとか生きてけるだろ』


そんなふうに思って、体だけは鍛え続けてきた。


ちなみに、村の人たちからは、

朴訥そうで真面目な青年と思われているらしい。

まあ、見た目はそうかもしれない。


だが中身は違う。

俺は、やるときはやる男だ。

王都で一旗あげるため、今日ついに旅立つ。


朝日に照らされた村の広場に、村人たちが集まっていた。

俺の荷物は背中に背負った大きな布袋ひとつ。

中身は干し肉と水袋、そして鍛錬用の石がぎっしり。


旅の途中、歩きながらでも筋肉を鍛え続けようと思ってのことだ。

筋肉は裏切らない。

一旗あげるための基礎はここにあると信じている。


「ゲット坊や、気をつけて行くんだよ」


隣の婆さんが杖を突きながら近づいてきた。


俺は笑顔でうなずく。

婆さんは俺を小さい頃から見続けてくれた人だ。

孤児の俺を何度も何度も助けてくれた。


「婆さん、心配するな。俺は王都で必ず一旗あげる」


胸を張って答えると、婆さんはニヤリと笑った。


「英雄色を好むなんて言うけどねぇ……あんたは色を好みすぎて、王都に着く前に女難で倒れるんじゃないかい?」


村人たちがどっと笑った。

俺は苦笑いしながら頭を掻く。


確かに、俺は女の子に好かれやすい。

筋肉のせいか、純朴そうに見えるせいかは知らないが、妙に警戒されない。


だが俺は真剣だ。

英雄になるために王都へ旅立つのだ。

女難だって?そんなもの筋肉で跳ね返してやる。


「婆さん!みんな!今まで本当にお世話になりました!行ってきます!」




──村を出て続く道は、朝露に濡れて輝いていた。


(うん。気持ちいいな)


俺は深呼吸して歩き出す。

背中の荷物(石のせい)がずしりと重いが、筋肉があるから問題ない。

歩くたびに全身が軋む。

だがこれが俺の、ただ一つの財産だ。磨き続けてやらなければ。


(それにしても……英雄色を好む……か)


婆さんの言葉が頭をよぎる。

英雄は女好き?いや、女が英雄を好む……そういうものなんじゃないだろうか。

まあ今の俺には何の関係もない話だけどさ。


田舎道を進むと、鳥のさえずりが響き、風がますます心地よい。

俺は快活に笑った。王都までの道は長いが、筋肉と野心があれば怖くない。


途中、川辺で水を飲み、石を持ち上げて鍛錬する。

歩いているだけじゃ、やっぱり物足りなかった。

とにかく英雄になるためには、常に鍛え続けることが必要だろうしな。


昼頃、森の入口に差しかかった。

木々が生い茂り、薄暗い道が続いている。

俺は背筋を伸ばし、堂々と歩みを進めた。

森の中で何が待っていようと、恐れはない。


俺は命知らずの男だ。

どんな相手だろうと来るなら来い。

長生きはしたいが、常に死ぬ心構えも出来ている!

まあ、ちょっとやそっとじゃ死なないけど。


「王都で一旗あげる……必ずだ!」


声に出して自分を鼓舞してみた。

孤児として育った俺が、村を出ていっぱしの男になる。

俺が思いつく人生設計で、これ以上の物語はない。


そのとき、森の奥から人影が見えた。

小さな荷物を抱えた少女が、道端で困ったように立ち尽くしている。

俺は思わず足を止めた。


「どうした?」


声をかけると、少女は驚いたように振り向いた。

大きな瞳が俺を見つめる。

荷物が地面に散らばっている。

俺はすぐに駆け寄り、荷物を拾い集めた。


「べ、別に助けてもらわなくてもよかったんだから!」


少女は顔を真っ赤にして叫んだ。

俺は思わず笑った。

これがツンデレってやつか?


婆さんの言葉が再び頭をよぎる──。


『英雄色を好む』


俺の旅は始まったばかりだというのに、

もうこんな出会いが待っているとは!


村を出て半日、

鮮やかに色づき始めた日常を前に、俺は笑いを抑えることができなかった。

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