第42夜

「…っ…夢…か……」



一ヶ月前の事故の夢

白羽を死なせたくない一身で、この手で運命をねじ曲げた


許されざる禁忌である事も、相棒に止められた事も

十分に分かっている……


それでも尚、白羽を死なせたくなかった

喪う事なんて考えたくもなかった


今、こうして共に居られるのならば……


エゴでも傲慢だと言われようとも。

悪魔の力を封じられようとも。

自身の持つ全てで代償を支払ってでも。


一向に構わなかった……


あの瞬間からクロウという名を捨て、彼は人間としての偽りの名『杉浦陽斗』として。白羽の親友として。

生きる事を決めたのだ


けれど……


───お前が余計な事をした原因で本体から分離した『影』だ


元相棒であるリュウトに言われた言葉が響く彼の魂を救った事で、更なる命の危機に晒されているなんて……

後悔はしてないと思いたいのに、思えない


自身が差し出せる代償なら何だって構わなかった


けれど、代償が大事な親友の命なんて認められない

認めたくない


───本気で護ってやりたいなら本体を影より先に殺し、魂を喰らってやる事だ


影は本体にしか殺せない

そして本体に成り代わろうと、影は命を狙って来る


影は人間とは違う

負の塊だ……

命を奪おうとも胸を痛める事はないだろう


けれど本体は違う

何より白羽には、影だとしても殺せない


そうなれば影の惨殺が待っているだけだ


冗談じゃない

影などに彼の命を蹂躙されるなんて耐えられない


だったら、本気で白羽が影を殺す気にならないといけないのだだとしたら、方法は1つしかない


「白羽の命の代償は、俺自身の命で支払ってやる」


きっと、この方法を白羽に知られたら怒られるだろう

悲しませるだろう

最悪、憎まれるかもしれない


けれど、陽斗にとっては最善の方法だった


エゴだろうが何だろうが白羽に生きていて欲しい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る