第22話 アーシェル街道
アーシェルからリベル・オルムへ向かう街道には、
全部で五つの宿場町がある。
アーシェル近郊は非常に肥沃な大地が広がっており、
大規模な農園や牧場が多い。
さらに、ステム平原のラクナ山地近くでは、
比較的品質の良い扱いやすい素材が採れる。
そのため――
* 農園・農場の護衛
* 採集依頼
* 小規模討伐依頼
こうした仕事が豊富で、
冒険者はまず“アーシェルを目指す”のが定番となっている。
大陸中央部に比べて物価も安い。
だから、引退した冒険者や錬金術師、薬師が多く住み、
安価で質の高いポーションや解毒剤がアーシェルで大量に作られる。
こうした農作物や薬、素材は
まずアーシェル街道の第五宿に集められ、
そこで荷分けされてリベル・オルムやリュミナートの首都ラザリスへ運ばれていく。
この流通事情のため、
第五宿は他の宿場町と比べ“アーシェル寄り”に位置している。
つまり――
アーシェルを出てほんの少し歩けば第五宿があり、
頑張れば一日で第五宿まで辿り着けるほど、
アーシェルから最初の宿場町は間隔が短いのだ。
***
急ぐ旅でもないため、
僕たちは第五宿で宿泊することになった。
比較的安全な街道沿いとはいえ、野宿には一定のリスクがある。
どちらにしても距離的に明日は野宿せざるを得ないし、
旅の進捗次第では明後日もその可能性がある。
「泊まれるときは無理せず泊まったほうがいい」
というのがカイルの主張だった。
第五宿での宿泊は、基本的に問題はなかった……のだが、
ただひとつだけ揉めたことがある。
リシアのためにもう一部屋取るかどうか問題だった。
男二人と同室はまずいんじゃないか、
というカイルのもっともな指摘に対して、
リシアが静かに反発したのだ。
森の小屋で一緒に寝起きしていた僕は、
正直その発想がなかった。
「ユウさんとリシアさんって……やっぱりそういう仲なの?」
と聞いてくるカイルに、
僕は全力で首を横に振った。
リシアは綺麗で優しいけど、
僕なんかがそんな……おこがましい。
「なら、ちゃんとしたほうがいいと思うよ」
というカイルの至極真っ当な意見と、
なぜだか怒気を含んだように見える
リシアの視線が僕に突き刺さる。
結局――
「そんなことを気にし出したら、リシアは野宿もできません。
二部屋とるなら、カイル様だけ別室でどうぞ」
というリシアの極めて冷静な一言で、その場は収まった。
(リシア、強い……)
***
それから気になったことといえば、
「リシアと同室だと緊張して眠れない」とぼやいていたカイルが、
速攻で寝て朝までぐっすり寝ていたこと。
そして、宿屋に併設された酒場で聞いた噂。
街道沿いの魔物が、最近少し活発になっている――。
それは、本来“初心者向け”であるはずの街道には似つかわしくない、
そんな気がする噂だった。
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