素晴らしかったです。自分には書けないタイプの物語で、とても心躍りました。
曖昧な文学の世界を愛する詩織と、理論的な科学の世界を愛する健斗。二人は昔から犬猿の仲で、大学に入ってもずっと憎まれ口を叩きあう関係性でした。
そんな二人は、ある日図書館で同じ文献に当たろうとして指先が触れ合います。「どっちが先に借りるか」を決めるため、二人が始めたのが「専門用語しりとり」でした。
ルールは、詩織が文学に関する用語を使い、健斗が科学に関する用語を使う、というものです。3時間以内に返信できない場合と「ん」がついた場合は負けとなります。
このルール設定が非常に秀逸。文系用語と理系用語が互いにぶつかりあう「ちぐはぐ感」が、二人の対の性格を如実に表しています。さらに、しりとりが進んでいくにつれて、二人は段々と相手の世界を覗き見ていくこととなります。
見所はなんといっても「少しずつ」心を通わせてゆく二人の恋模様にあると思います。筆致が大変丁寧で、展開をすっ飛ばすことなく着実に心が近づいていきます。この描写力は僕には真似できないなと思いました。
加えて「しりとり」という題材を活かしつつタイトルをも華麗に回収する結末。もう見事という他ありません。