第5話 ごみ
「聞いてた話と全然違って、びっくりしたよ。よかった、お義父さんもお義母さんも認めてくれて」
「うん……それは、ごめん。私もちょっと大げさに言いすぎたかも」
実家から帰って、二日後。
午後、玲奈は聡太の運転する車で、アルバイト先の実里の店へ送り届けてもらっていた。
その車中で、話題は実家で何もなかったということ。
聡太は玲奈から話を聞いて、やばい信者がたくさんいる様子を想像していたけれど、二泊三日もしたのに信者の姿はなく、普通の家と違うのは朝と夜のお祈りの時間だけ。
頭をこすりつける動作は、どこか異国の宗教だと思えばまったく変だとは思わなかった。
「もっと変なことを言われたりするのかなって思って、覚悟決めてたんだけどね……歳の差のことも何も言われなかったし」
「うん、そこも意外だった」
玲奈自身も意外過ぎて驚いたくらいだ。
その裏に何かあるのではないかと疑っていたが、結局、最後まで何も起こらなかった。
しかも、帰りに菓子折りまで持たされた。
中身は玲奈の地元で有名な和菓子店の羊羹で、聡太の家の分もある。
「全部予想外すぎて、本当にびっくりした。違いすぎて、怖いくらい……私、絶対
「まぁ、あえて言うなら、ちょっと怖かったのは、柱に貼ってあった御札くらいかなぁ。あれって、全部の部屋にあるの?」
「全部ってわけじゃ――っていうか、御札の話はあまりしたくない。思い出す度に吐きそうになるから……」
「ごめんごめん。じゃぁ、話を変えようか」
「うん」
「成人式はどうだった? あの後、高校の同窓会もあったんだよね?」
「うん、まぁ、カラオケに行っただけだけどね」
参加したのは十五人ほど。
クラス全員というわけではもちろんなく、何となくつるんでいた面子というのは決まっていて、玲奈もその一員だった。
「久しぶりにいっぱい話したよ。それに、こっちで旅行計画してる子が何人かいて、お店と……あと、片山農園の宣伝もしておいた! 苺狩りもやってるし!」
「さすが玲奈。そういうところは抜かりないね」
「まぁね! だから実里さんにも営業上手って言われて、引き抜かれたんだよ」
聡太の家は、主に果物の生産をしている農家だ。
以前は野菜を使っていたが、聡太の父の時代から採算が取れる果物のみに切り替えた。
その多くが贈答用として売られる一級品で、実里は片山農園の果物をケーキに使っている。
店の売上が良ければ時給も上がるし、玲奈は積極的に宣伝活動をしていて、実はSNSの運用も一部任されている。
「お店のフォロワーももっと増やさないと!」
「頑張るねぇ、それなら顔出ししたら? その方がもっと人が増える…………いや、玲奈に変な虫がついたら困るか」
「変な虫……?」
「だって、玲奈は可愛いし、ストーカーとかさ……」
「え? ストーカー?」
可愛いと言われたのは素直に嬉しかった玲奈だったが、ストーカーと聞いて嫌な記憶が一瞬頭を過ぎる。
中学三年の頃、塾の帰りに誰かに後をつけられていると思ったことがあった。
そのこを同じ塾に通っている友人に話すと、ちょうど通り道だからと送迎に来ていた車に乗せてもらうようになった。
もちろん、本当の家の前ではなく、住んでいると嘘をついたマンションの前で降ろしてもらっていたが……
「最近そういうネット関係のトラブルとかもよくニュースでやってるし……それに——」
聡太は何か言いかけたが、店の前に着いてしまって、話はそこで終わる。
続きは今日の仕事が終わってからでいいか――と、玲奈はたいして気にしていなかった。
自分が妙な人間につきまとわれることが多い自覚はしているのだ。
中学生の頃だけじゃない。
小学生の頃も、高校生の頃も、何度かそういうことはあった。
ギリギリのところで回避できた時には「信之丞様が守って下さったおかげよ」と、美恵や妹が言うのにうんざりしていたが……
SNSに自分の顔を晒すことはない。
店以外にも、個人のアカウント複数あるが、アイコンは適当にネットで拾った可愛い子犬の写真を使っているし、非公開のアカウントでも自分の顔は絶対に載せていない。
自分の顔を晒してまで注目されたいだなんて、そこまで承認欲求は高い方ではなかった。
「――実里さん、これ捨てておきますね」
「うん、お願いね」
その日、店の制服に着替えると、玲奈の最初の仕事はごみ出しだった。
といっても、ビニル袋に入っていてきっちり縛られている軽いものを、店の裏にあるごみ捨て場に置いてくるだけ。
なんてことない、いつもの仕事だと思っていた。
「やだ……なにこれ」
いつも整然としているごみ捨て場が、めちゃくちゃに荒らされているのを見るまでは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます