第14話 プレゼン本番

 プレゼン前日だ。パンフのパイロット版とwebページの齟齬があることを思うと胃が痛い。籠原部長は、俺に考えがある、と言っていたけれど・・。

 たまらず、部長に尋ねた。

「部長、いよいよプレゼンですけど、例の部分、考えがあるとおっしゃいましたけれど・・・。」

「ああ、そのことか。まあ、座れ。」

 促されて、部長のデスクの前のソファーに座った。

「何、心配なのか?」

「はい。」

「役員会だって、誰も気が付かなかっただろう。毎日、見ている俺たちは気が付くけれど、初見で、大まかに全体のイメージを見ていたら気が付くものか。」

「あらかじめ、クライアントに伝えた方がいいのではないかと・・。」

「急にどうした?誰かに相談したのか?」

「・・・・・え?まぁ?それとなく・・・。」

「旦那さんか?」

 否定できなかった。

 

昨晩、月斗に同じ営業職ということで、意見を求めてみた。月斗はしばらく考えていたけれど、静かに口を開いた。

「プレゼンの前に伝えた方がいいな。」

「どうして?」

「クライアントと受注業者の信用問題だ。ズレているなら、最初にそう言って、それぞれのデザイナーのアイデアを尊重した。統一した方がよければ修正します。と言えばいい。」

「そうかな。でも、それでプレゼンに落ちたら。」

「その時は、またチャレンジすればいい。信用を失ったら二度と採用されない。」

「そうね。部長にそう言ってみる。」


「俺のプランはこうだ。まずプランA、クライアントが気が付ない。役員会でも指摘されなかった。この可能性が高い。そしてサブのプランB。気が付かれて指摘されたら、『気が付かれましたか。今回わざと違えてあります。統一をお望みでしたら、どちらかにそろえます。』と言えばいい。あくまでデザインだと。そろえるなら、クライアントの希望ならデザイナーにも遠慮なく変更を指示できる。」

「なるほど。それなら、気が付かれない可能性が生かせますね。」

「馬鹿正直に言えばいいわけじゃない。プレゼンは駆け引きだ。」

「ですね。」


プレゼン当日、私たちの発表はスムーズに進んだ。クライアントからの意見も高評価を感じさせるものが多い。終盤にさしかかった、その時

「あの~。パンフのパイロット版とwebページのディテールが違うようなんですけど、確認させてもらっていいですか。」

 パンフレットのパイロット版を手にした、若手社員が手を挙げた。仕方なく、確認作業が入る。

「やっぱり、いろいろとズレているみたいなんですど、一般的には、統一しますよね。どっち見ても同じ印象をもてるように。」

 籠原部長は、さわやかな笑顔を浮かべ、

「気が付かれましたか。今回わざと違えてあります。統一をお望みでしたら、どちらかにそろえます。」

 想定したとおりに、スラスラと対応した。

「なるほど。そういうお考えでしたか。では、採用した場合には、このままでいくか、統一するかは、また、ご相談させてください。」

 採用担当のキャップ入試課長が、うなずきながら言った。

「おまかせください。」

 籠原部長の言葉は、勝利宣言のように、私には聞こえた。


 





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