介護士の私、魔王の世話係になりました
aki
第1話
「きゃー、佐藤さん!」
「おしり触っちゃダメっていつも言ってるでしょ」
朝から女性職員の悲鳴が聞こえる。
ここは片田舎にあるデイサービス。
食事や入浴、リハビリなどのサービスを提供している施設だ。
1日の定員40名。
週に3日通ってきている認知症のおじいさん。
それが佐藤さん。
奥さんと二人暮らしの佐藤さんは杖をついて歩けるけれど、ふらつくことがあるから歩くときはいつも誰かと一緒。
介助につくと決まってお尻や腰を触ってくる、困ったセクハラ爺さんだ。
「佐藤さん、朝のお茶ですよ」
デイサービスでは、朝の来所時に検温測定とお茶を出すきまり。
お茶を佐藤さんの目の前におくと、その手を握られ、
「まやちゃん、ありがとう」
撫でまわしてくる。
わたし、山田まやは、佐藤さんの手をやんわり遠ざける。
「もう、朝からお触りはダメよ」
表情にっこり、目は怒。
「まやちゃん、今日はなくしものが見つかるんじゃないかな。
わしと一緒にお風呂入ろうね」
「そうね、お風呂は一緒に入りましょうね」
話を合わせて、他の利用者さんの元へお茶を運ぶ。
今日の入浴介助はわたしと他3名のスタッフ。
『なくしものが見つかる』
何のことやら…。
佐藤さんは、手相占いが趣味だそうで、よくみんなの手相を見てあげている。
利用者さんだけではなく職員も。
当たり障りのないことを言うので、大方占いは的中。
わたしは、理由を付けて手を触りたいだけじゃないかと睨んでいるけど。
午後の入浴介助。
相変わらずの佐藤さんのセクハラ発言。
あんまり続くようならケアマネに報告しよう、と決意するも、絶妙なタイミングでおさまるセクハラ。
佐藤さん、ほんとにボケてるのかな?
認知症の病名がついている佐藤さんは、時々妙にしっかりしているときがある。
目が鋭くなるというか、全体をしっかり把握できているというか。
今日も朝からみんなの手を触り、歩行介助についた職員の腰を触り、リハビリのお兄さんの足をなで回し。
そろそろケアマネに報告しようか悩んでいた矢先の入浴ではセクハラがゼロ。
絶対に状況が分かってて、セクハラ加減を調節しているんじゃなかろうか。
利用者さんの入浴が終わって、浴室を片付けていると、ボールペンが1本棚のすみに落ちていた。
無くしたと思っていたお気に入りのボールペン。
佐藤さんの占いが当たった?
まさかね。
ボールペンをポケットにしまい、浴室を後にする。
翌々日。
佐藤さんの利用日。
この日は、最近デイサービスに通い始めた田中さんも利用する日。
この田中さん、脳梗塞の後遺症で状況把握が難しいみたいで、おまけに言葉もうまく喋れない。
退院した病院からの報告だと、失語症があって、言葉の理解や表出が困難。おまけに状況が理解できるまで時間がかかるとのこと。体には右半身麻痺が残ってしまい常に車いす生活。
セクハラ佐藤さんに、新顔の田中さん。
他にもデイサービスに来る利用者さんには手のかかる方が多い。
ケアワーカーの仕事は、気力も体力も使う。
今日も頑張ろう。
一人気合を入れて、朝のお迎えのため施設の玄関へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます