☆TS転生アイドルが☆百合コメ無双インフルエンサーに☆
幽玄書庫
☆異世界デビュー☆
部屋いっぱいに広がる純白の柱と、宙に浮かぶ淡い光の玉。
どこだ、ここ……?
目の前には、やけにカラフルな少女が立っていた。
先のとがった三角帽子に、肌の露出が多いローブ。
だが、その配色は星々を散りばめたようにキラキラと輝き、まるでアイドルのステージ衣装のようだ。
右手にはポップなデザインの魔法の杖、左手には薄型の端末を持っている。
彼女は俺の顔を見るなり、満面の笑みでピースサインを作った。
「やっほー☆ 今日から異世界デビューだよ! おめでとう!」
……は?
こちらの困惑をよそに、彼女は少しだけ不満げに頬を膨らませる。
「えっと……君、マジしらけ顔! ダメダメ、もっとこう、喜びを全身で表現しないと! はいこっち向いて、チーズ☆ SNSに上げるから!」
パシャッ、と端末から軽快なシャッター音が響いた。フラッシュが焚かれたわけでもないのに、一瞬、世界が白く光った気がした。
「……なんで俺、写真撮られてるんだ?」
「だって記念だもん♪ 推しの門出はちゃんと記録しないと! 推し活って感じで!」
その笑顔は、アイドルのステージMCみたいに無駄に華やかだ。
「……で、誰だあんた」
「は~い! 女神のユーティでーす☆ 天界のゴッズ・グラムフォロワー数、第3位だよ! よろしくねっ!」
彼女――ユーティは胸の前で両手でハートマークを作り、片目を瞑ってウィンクしてみせた。
「女神なのにSNSやってんのか?」
「むしろSNS命だよ! 人気が落ちたら女神の座も即終了~。だから君みたいな、映える人材は絶対逃せないの♪」
俺は何かを言い返そうと口を開きかけた。だが、その言葉を遮るように、ユーティがふと真顔になった。
「……君、死んじゃったんだよね。でもすごい才能持ってたから、異世界の救世主としてスカウトしたの!」
「救世主とか……勘弁してくれ」
俺の拒絶に、彼女は小首を傾げて、小動物みたいにぱちぱちと瞬きをする。
「え、だって君、銃弾避けたりできるじゃん? それ、普通じゃないよ。その超人的なフィジカル。最高にヒーロー向きじゃない?」
「……別に、ちょっと目が良いだけだ」
俺は少し沈黙してから、淡々と自分の過去を話した。
この世には、法では決して裁くことのできない悪がいる。
富と権力で罪を揉み消し、弱者を食い物にする外道ども。
俺は、そんな奴らを人知れず「処分」してきた。
俺がやらなければ、誰もやらないからだ。
最後の仕事で、ターゲットをビルの屋上から突き落とした後、追手との戦闘で足を踏み外し、自分も落ちた。
で、今こんな所に居るってわけだ。
ユーティは真剣な眼差しで俺の話を聞いていたが、やがてキラキラした微笑みを取り戻す。
「なるほどね~。そういう正義感、めっちゃエモい! じゃあ〜、異世界で魔王を倒したら、ご褒美に君の望み通りの人生に転生させてあげるっ☆」
その言い方はまるで、「次のライブも絶対来てね」みたいな軽さだった。
俺の返事を聞く前に、ユーティは端末を操作し、俺の足元に眩い魔法陣を展開させる。
「それじゃ、行ってらっしゃーい! 初期装備はアタシからのスペシャルプレゼントだから、大事に使ってね!」
意識が、光の奔流に呑まれていく。
最後に聞こえたのは、「あ、やっべ! 性別設定、デフォルトのままだった!」という、女神の焦った声だった。
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