月が綺麗な夜だから(花梨と志真⑦)

胡桃ゆず

序章

 人生は、思った通りに行かないことの方が、きっとほとんどだ。自分の意思ではどうにもならないことは、山ほどある。

 いいことも、悪いことも。


 楽しみにしていた予定があっても、さっきまでお陽さまは機嫌よく空の上にいたのに、いつの間にか世界は灰色になっていて、急に雨が降ってきたり。


 信号機のトラブルで電車が遅れたり。


 車の移動で渋滞にはまったり。


 なかなか信号の変わらない大きな通りで、ただ道の向こう側に渡りたいだけなのに、渡ろうとした瞬間に赤信号になったり。


 道端でスニーカーが蹴飛ばしたのが、石ころであっても、百円玉であっても。


 たくさんの人の中から出会う偶然も。誰かとすれ違うのも、喧嘩をするのも、そしてまた見知らぬ人になるのも。

 ずっとそばにいるのも。


 都合よくなんていかない。自分の意思だけじゃ決まらない、いろんなことが絡み合って起こる結果が、人生というものなのだとしたら。

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