砲担ぎのカテラ
芹
第1話
寝覚めの悪い朝だった。雑音ともとれるアラーム。
カテラ、そう呼ばれている相棒は、黒灰雪の降り積もる雪原の枯れている巨大な樹の洞の下で目を覚ました。
腕時計は午前二時半と示されている。もう少し微睡に包まれていたかったが、時間ならば仕方がないことではある。
辺りは時間にしてはやけに明るい。理由はある。モノが発光しているからだ。
頭まで被っていた布切れを乱雑にバッグにしまい込む。手早く掃ったこの雪はいうほど冷たくはない、かと言って暖かくもないが。
まあ、カテラは本物の雪など見たことなどないのだが。
「ま、行くとするか……」
樹の幹に立て掛けてある巨大な砲銃を背負い込み。獣除けの煙草に火をつけ、一歩を踏み出した。
再び、この下層の最北端に位置する「灰村」を目指す。死灰の大雪原を超えた先にある、ある忘れ去られた集落へ、歩みを進めて行く。
いくら、この場所が「墓所」に近く魔獣が少ないとはいえ、完全に生息域を出ているわけでもないので、こうして苦手な煙草なんぞに頼らねばならないのだ。
ひどい吹雪で前が見えづらい。だが、カテラには行く先が見えている。
この程度の目くらましにもならない吹雪なんぞは、訓練で死ぬほど経験してきた。
微睡に戯れていた場所から16メントほど進んだあたりで、すん、と鼻を鳴らした。
獣の臭いだ。ごく微かなすえた死臭。
まだ距離はある。風下で獣除けの煙草は届かない。面倒だ。いやまあ、だから、この位置で気づけたのは大きい。
カテラは煙草を地面に押し付け消すと、砲銃を静かに背負い下した。
位置が分かっているなら先制攻撃が喰らわせられる。当たり所さえよければ、一撃で魔獣は撤退するだろう。
ん? 勝つ?
そんな気はない。我々では魔獣には勝てない。そう神が決めている。
「距離は3メント、位置は…上方14メント、飛空型……。枝にとまっているのか。さて、こいつで当たるかね……」
カテラの使う得物の砲銃は単発式で連射式じゃない。躱されたら、まずいってことだ。
まあ、外れることなんて、万に一つもないんだがね。
カテラはコンコンとベルトに結われた『私』の小さな棺を叩いた。
「エリン、起きてるんだろ。ぼそぼそ喋ってないで正確な距離の解析してくれ」
『ばれていたか……。まあいい、そのくらいなら、私の独り言(誰かへのお喋り)を邪魔しないだろう』
『私』はいわゆる禁忌兵装だ。まあ、この意識はその残滓、みたいなものと思ってくれていい。
このお喋りが届いているということは、君はどうやらチャンネルが合ったようだね。
まあ、暇つぶしに聞いてくれ。これh……。
「おい、エリン」
もう一度、コツンと強めに叩かれ『私』は急いで演算をカテラの思考に転写した。
『すまないカテラ、転写は済んでいる』
「よし、この距離なら当たる」
体勢を整え、砲口を上に向ける。砲銃の銃底から細い糸のようなアンカー飛び出しが地面に突き刺さった。
カテラは優秀な砲担ぎだ。上手く当てる技術がある。『私』もそこだけは信用している。
砲弾を装填し、キリキリと砲口を軸合わせ、右横についている実にちんけな狙い目筒から『私』の転写した位置へと向ける。
重そうな引金に指をかけカテラは息を吸った。
『当たるか?』
「当たるさ、もう視た、からな」
引金をガチンと引いた。歯車の急激な回転音、砲口が火を噴く。衝撃で地面が歪みへしゃげる。ヒルゥゥルゥと砲弾が発射された。
これまた弾速は遅い。
『私』が現役時代の兵器とは大違いだ。
しばらくして、上空で、ドゴォオンという着弾音が聞こえた。少し先の黒灰雪の地面にべしゃべしゃと赤い血が灰の空の彼方から零れ落ちてきた。
砲弾はたしかに命中したようだ。
これは、一人の砲担ぎ、そう呼ばれていた人外に育てられた、一人のヒトの話だ。
砲担ぎのカテラ 芹 @seli1120
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