第6話 面接

「では、面接を開始します!」


「なんで木村が仕切るのよ」


「木村言わないで! 私のことはキキって呼んでって言ってるよね、社長」


 社長椅子に座って、何故か腕を組んで面接を始めるキキ。

 しかし社長から本名なのか、『木村』と呼ばれてご立腹の様子。

 木村って名前が嫌なのか?


「それより面接するのはあんたじゃないから。面接は私がすんの」


「面接なんて必要無いよ。お兄ちゃんは有能だから採用」


「だからそれを決めるのは私! 雪花、ちょっといつもと様子が違わないか?」


「そう? いつも通りだと思うけど」


 クールぶって壁に背もたれしているリアラは、社長に冷たく返えす。

 

 これが普段のリアラなんだろうけど……俺からすれば逆に違和感を覚える。

 本当は暴走してばかりの女性なのに。

 クールに程遠い性格なのに。


「えっと……風間龍太さん。年齢は35歳。私と同年だ……コホン」


「社長っていくつなんですかー?」


「それは言えない乙女の秘密。女性に年齢は聞くもんじゃないぜ、木村」


「だから木村言うな!」


「そもそもお前も女なんだから、分かるだろ。そういうの」


 社長は自分の歳を言いたくないらしい。

 若く見えるけど、俺と同年代なんだな。

 

「以前勤めていた会社を辞めた理由は?」


「社長が失踪しまして。そのまま倒産になりました」


「それはお気の毒に。大学を卒業してから13年も務めていたと。真面目な性格なんだな」


「どうでしょう。真面目なつもりは無いですけど、そう言われることは多いですね」


「真面目なお兄ちゃん……採用」


「だから雪花。お前が決めることじゃないって言ってるだろ」


 リアラは俺のことをどうしてもマネージャーにしたいらしく、採用としか言わない。

 だが社長が言うようにリアラにその決定権は無いので、彼女の言葉には何の意味も無い。


「でも私たちのマネージャーでしょ」


「それはそう。お前らの面倒をしっかり見れるかどうか、それが一番のポイントなのは確かだな」


「私たちのマネージャー、いつもすぐに辞めるもんね」


「お前らの個性が強すぎるんだ。上昇志向が強いのに我が強い。木村たちのマネージャーをする奴は気の毒だ」


「木村言うな! キキっ!」


 その気の毒なマネージャーを俺にさせようとしているのか?

 面接で言っていい言葉じゃないだろう。

 そもそも、アイドルが口を出す面接っておかしいんじゃないか?

 アイドルの事務所ってこれが普通なのか?


「話が逸れて済まない。まぁ聞いての通り、こいつらのマネージャーをするのは骨が折れる。だから面接なんて本当はどうでも良くてな。一番大事なのは続けられるか……ゼログラビティの力になれるかどうかなんだ」


「なるほど。そんな話を聞くとマネージャーをするのが嫌になってきたな」


「ええっ!?」


 腕組みをしてクールぶっていたリアラが、ビックリした声を漏らす。

 彼女は真っ青な顔をしてこちらを見ており、視線を向けると泣き出しそうな表情を浮かべていた。


「どうしたのさ、リアラ」


「え、別に何でもないけど」


 髪を手で弾き、涼しい表情を作るリアラ。

 俺といる時の自分を知られるのが嫌なのか、バレないように必死なようだ。


 そんなリアラを、キキは怪訝そうに見ている。


 「マネージャーって大変なんですね。俺に務まるかどうか」


「どんな仕事でもそれなりの責任はあるだろ。ただその責任が重いかどうかの話で……」


「結局重いんですよね!? やっぱり俺には無理なんじゃないかな」


「だ、大丈夫だと思うけど、お兄ちゃんなら」


 リアラの上ずった声に皆が彼女の方に振り向く。


「お兄ちゃんならうまくできるよ。私には確信があるから」


「俺にも無い自信をなんでリアラが持ってるんだよ……」


「だってお兄ちゃん、ブラック企業に勤めてたんでしょ。それに13年間も。それってとても凄いことじゃない? 普通なら病むか、辞めるか、あるいは人生を辞めたりして……要するに尋常じゃない精神力を持ってるってことじゃない。だからお兄ちゃんならマネージャーぐらい簡単にやってのけるよ」


「確かに雪花の言うことは一理あるな。これまで精神的に病んだり爆発したり……ゼログラビティのマネージャ―は大変なのは確かだ。だがブラック企業を勤め上げていた風見さんならあるいは」


「私はいいと思うよ。リアラが誰かをこんな風に推すのなんて初めてだし。興味湧いちゃった」


 俺はやるなんて一言も言ってないのだが……

 でもリアラが言ってくれたことに少し自信を持てたような気がする。


 ただブラック企業で務めてただけなのだが、捉え方一つで考え方が変わるんだな。

 自分の認識では辛い環境を生き抜いただけなのに、ポジティブに捉えたらそれはメンタルの強さの証明になると。


 俺個人の思考では辿り着けない答え。

 リアラが言ってくれるだけで心の扉が開けたような、そんな感覚だ。


「やってみてもいいかな……」


「そうか。なら採用だ」


「そんな簡単に決めていいんですか?」


「言っただろ。問題は続けれるかどうか。彼女たちのためになるかどうかだと」


 社長机の上に座りながら社長は微笑を浮かべてそう言った。


 この人はリアラたちのことを真剣に考えているのだろう。

 リアラたちのためになることが、あらゆることの最優先。

 それがマネージャーとして必要なことなのかもしれないが、この人の元でなら仕事をしてもいいかもな。


「但し言っておくが……前職より辛いかもしれんぞ。それは先に謝っておく」


「ははは……心を病まないように気を付けます」


 不安なところはまだあるが、しかしやってみようという決意はできた。

 これからどうなるか分からないが、試してみてもいいだろう。

 どうせ無職なんだから、ダメ元でやってみたらいいんだ。


 ふとリアラの方を見てみると、彼女は安堵したような表情でため息をついている。

 そんなに俺にマネージャーをやってほしかったのかよ。

 まぁそう思ってくれる気持ちは嬉しいけど。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 夜となり、俺はリアラを自宅まで送り届けることに。

 彼女はダンスのレッスンと歌のレッスンを受けた後で、疲れたようだ。

 

 なので彼女の荷物を持ち、彼女の隣を歩く。

 リアラは嬉しそうな表情でこちらの顔を覗き込んでくる。


「えへへ。お兄ちゃんがマネージャー。これでこれまでの1億倍は頑張れる」


「おい。自分のために俺をマネージャーにしようとしたんだろ」


「まぁ、99割ぐらいは」


「限界を超えた我儘! いや、いいんだけどさ。俺もこれで無職じゃ無くなったし」


 夜の町を歩く中、しかしリアラは以前みたいに飛びついてはこない。

 彼女の中にもまだ理性があるようで、俺はそれに驚いていた。


「これでお兄ちゃんと一緒にいても問題無し」


「まぁマネージャーが傍にいてもおかしくはないもんな」


「うん。あれからどうやったらお兄ちゃんの傍にいられるんだろうって考えて……マネージャーだったら無理も無いし、普通のことじゃない」


「ああ、そうだな」


「だから推したの。傍にいてほしいし傍にいたいし」


 リアラの笑顔は眩しく、この表情を知っているのは俺だけだと思うと優越感のようなものを抱いてしまう。


 皆のアイドルである彼女の、皆が知らない意外な一面。

 それを独り占めにするのは贅沢なことで、男としては嬉しい限りだよな。


 そんな会話を交わしてる間にリアラのマンションに到着し、彼女に荷物を渡す。

 するとリアラは俺に手招きをしてくる。


「? どうしたんだ」


 俺は彼女に顔を寄せると――リアラは突然、俺の頬にキスをしてきた。


「…………」


「えへへへへへ。お兄ちゃんとキスしちゃった! 今日はいい気分で眠れそう。じゃあおやすみー!!」


 真っ赤な顔で走って行くリアラ。

 俺は茫然としながら頬を押させて彼女背中を眺めていた。


 とにかく、こうして俺はリアラたちのマネージャーをすることに。

 これからどんな生活が待っているのか、妙にドキドキしていた。

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