神断のERROR(エラー)

羽の赦し記録者

第1話 邂逅~Prolog~

「ハァハァ……!!」


暗い下水道を走っていく私に驚く小動物───不要なノイズは全く聞こえなかった。

環境音は無音。

それは神断しんだんが判定した私への聴覚へのブロックだった。


ノイズ統制がされて……何も聞こえない世界のはずなのに……。

心臓音と呼吸音は天井知らずにどんどんと荒い音を立てて三歩先はどす黒い世界の中で『自分はノイズでは無い』と声高らかに歌うオペラ歌手のように響いていた。


そうして、角を曲がった先に光が見えると、私はそこへなんの躊躇いもなく突っ込んだ。

そして、世界に光が満ちた。

それと同時に世界からあらゆるノイズ統制が解除されて……まるで三流オーケストラのように個々の主張がバラバラな音が聴覚を刺激して……世界が様々な色のネオンカラーに染まる。


「待ちなさい!!」


私は大声で『彼』を呼び止めた。


スラム街にまるで……水に浸した水彩絵の具のよう溶けていく……気でいる人物……。

でも、私に確かに色をくれた『彼』はその声に反応して……足を止めてこちらを振り向いた。


そして、私はゆっくりと一振の銃を彼に向けた。


その瞬間……。


銃のサイトから6つのホログラムが現れて彼の脈拍や呼吸回数……。

そして戸籍など一瞬でありとあらゆる情報を検索する6つのホログラムは数秒間計測や検索をかけていると……。


急に深紅に染まり。

まるでこの世界の真なる雑音を検知した調律師のように無機物な中性の感じがする棒読みな声で『警告』というアラートを鳴らした。


「警告、神断結果……ERROR《エラー》。速やかに対象を排除してください……」


そして、銃のトリガーが小さくカチッという音を立てた。

それはトリガー解除(死刑執行決定)の音。


ここで私以外の代行者しっこうにんだったらその銃に搭載されたギロチンで迷わず彼の命を絶つ判断をしただろう。

そして一面赤色の海の中で鉄の匂いをなんとも思わず、ただ『彼』を排除したと他の代行者達にインカムを通じて銃の声と同じく無機物のような声で伝えただろう。


「あなたが東海帆あずまかいほですね!!重要参考人としてあなたを連れていきます!!場合によっては実力行使の捕縛も視野に検討に入れている為、行動には留意してください!!」


私がそういうと『彼』……東は大きく笑った。


まるで道化が人々を笑わせるように……。

まるで動物園で檻に入れられた動物が面白い行動を取った時に笑うように……。


そして、己が解き放った理性ある獣を嘲笑うかのように……。


ネオンライトが光る世界で煌々と。


笑う。

笑う。

笑う。


そして、ゆっくりとこちらを向くと懐から同じく一振の銃を取り出した。


「お前が梓川香織あずさがわかおりだな?何故、神断に従う?もう一度……『解放』してやろうか?」


その言葉から発せられた圧はまるで大気を震わせて……神断にノイズ統制されていないはずなのに環境音が遠くなって……。


自身の心臓の音だけが聞こえた。

ドクンとただ……世界に真の音を響かせた。

先程の走りの運動による鼓動とは違う音……。


緊張感。

それが私の世界に更にリアリティを持たせていく。

それはまるで油絵のように頑固な着色料で塗りつぶされたキャンパスのようだった……。


私達は決して交わらない線。

それはまるで幾学いくがくの世界で言えば無限遠点という単語が相応しいだろう。


私の銃は……支配する銃。

そして彼の銃は解放する銃。


そしてお互いは執行者とりしまるもの革命軍レジスタンスという立場。


そして、暗闇の中で……東の獰猛な獣のように爛々らんらんと燃えるような瞳が見えた。


それはまるで、この世界の全てを恨むような……怨嗟に満ちた暗い瞳だった……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る