【落涙】

 不治の病だった。

 若い亜人族に発症する

 奇病だった。


 前兆もなく

 何も変わらぬ日々を

 緩やかに過ごせるほどの


 だが着実に

 長命さえも蝕むほどの


 悪辣とした病だったと

 里長は告げる。


 だからなのだ


 度々「香澄」を連れて

 遠出していた理由


 お偉方に唄を届けた訳でも

 里のこれからを

 話してきたわけでもなく


 街ならば

「香澄」を助けられる

 そう信じていたから…。


「すまぬ」と

 力なく涙ながらに

 頭を垂れる里長


 助けられなかった。

 守りきれなかった。


 あの日のあの言葉は

 そういう意味合いだったのか…。


「香澄」から求められた。

 初めて求められた。

 俺はそれに応えた。


「愛」はなくとも

「情」はあるから


 優しく

 愛おしく

 時に激しく抱いた。


 忘れるものか


「私は…もう長くないのです」


 霞んでいく視界

 泣いた理由


「香澄」から告げられた

 決別の言葉


 永遠の別れの言葉


 忘れるものか


 快楽に震えながら

 欲に溺れながらも


「香澄」は俺を見て

 俺を愛し

 俺を慕い

 俺を支えてくれたのに…。


 俺が見ていたものは

 ずっとずっと


「桔梗」だけだった


 それなのに…


「香澄…香澄…」


 力なく口にした

 その響きの重さを知った。


 これが罰なのか

 これが罪なのか

 これが咎なのか


 ならば何故


 俺が生きているのか


 何故


「香澄」が消えねばならないのか


 暗い暗い闇へと進む

 このままゆっくりゆっくり

 溶け込むように


 そっと

 背中から暖かいものが

 凍える心を包んでいた。

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