【川辺】

「いつ来ても…変わらない美しさがあるな」


 不意に響いた声に振り返る。


 誰にも知られていない場所。

 私のとっておきの場所。


 でも私だけではない

 実はもう一人…。


 幼き日に共に見つけた人。


「どうされましたか。このような場所へ」


 目を丸くすることしか出来ない。

 笑うのが苦手な自分を

 この時ばかりは嬉しく思えた…。


 浅ましいこの思いを

 悟られずに済むのだから…。


 ああ…なんて醜い…。


 いつぶりだろうか…

 二人だけで話せるのは。


 何故こんなにも

 胸が高まるのだろう…。


「里を探しても居なかったのでな。もしやと思って足を向けたんだ」


 変わらぬ声色

 優しげな眼差し

 堂々とした足取りでこちらへと向かいながら

 あの人はそう告げた。


「私を…?何故?」


 短絡的な問いかけ


「あの日からきちんと話していなかったから。君と話したくてね桔梗」


 ああ…

 やめてください…。


「桔梗」


 その名を貴方が口にする度に

 蓋をした感情が溢れだしそうになる。


 ただ名前を呼ばれただけなのに

 こんなにも昂ってしまう。


「わざわざこんな所に…出向かなくともしばらくしたら帰りましたのに」


 淡々と

 悟られないように淡々と

 口に出した言葉。


 少し棘があったろうか?

 無意識に冷たくなったのではないか?


 そんな思考が一瞬よぎり

 視線を静かに逸らした。


「里ではゆっくり話せないだろう?ならば出向いてでも」


 優しい人

 どこまでも優しく

 意地悪な人。


 何故そのような言葉を投げかけてくるのか…。


 わかっている。

 里の体裁

 次期里長としての責務


 私を裏切らなければならない理由など

 頭ではわかっている。


 姉を選んだことも

 私を選ばなかったことも


 何度も何度も何度も何度も


 頭の中で繰り返したのに

 頭の中で納得させたのに


 たった一言だけで


 心を乱してくる…。

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