みんな集まったということで昨夜持ってきていた

“和三盆と黒豆のロールケーキ”を食べる事に。

お茶の時間だだ。

天護、つゆ、云壇、橙、蒼…ケーキを5等分してコーヒーを淹れる。



云壇「で、つゆちゃんどうやって天ちゃんとこに?速かったね。」

つゆ「昨日の夜、天護様にまた背に乗せてもらって。速いのは天護様で、私じゃないんです、へへ。」


云壇は少し不思議そうな顔をして…

云壇「え?じゃあ昨夜から?…じゃぁ、昨日はここに泊まったの?」

つゆ「そうですけど…どうしてですか?」

云壇「ほんと?…じゃあ…あれなんだったんだろ。」


つゆはコーヒーを一口飲み「あれって?」と聞く。


云壇「さっき、つゆちゃんの家の前通ったら家に人影があってさ…だから、ここにいてびっくりしたの。来るの速いなーって。僕も山駆けてきたけどさ、つゆちゃんは人じゃん。」


つゆ「え?そんなわけ…私ずっとここに…」

天護「…見間違いじゃないんか。」

云壇「僕が売った家だよ、見間違うわけないでしょう。」


一同「・・・・」



つゆ「ちょっと…帰ろうかな…なんか心配になってきた。私のお家…」

天護「待て、落ち着け。誰か来る予定はなかったんか?」

つゆ「ないです…誰にもまだ住所教えてないし。」

天護「つゆ、今から云壇ところまで飛ばす。こいつの車で家に戻れ。それが一番速い。云壇…わかってるな。」


云壇「分かってるよ、任せて。」


天護「橙と蒼…おまん達は走って山を降りて、つゆの家へ行け。相手がなんでも殺すなよ、連れてこい。」

橙・蒼「御意。」


つゆ「大げさだな・・・1人で大丈夫だよ。」

天護「大丈夫なわけあるか、2人とも行け、急げよ。」


そうしてそれぞれ、山を後にし、つゆの三角屋根の家まで進む。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


つゆは天護の神社から云壇の神社本殿に飛んだあと、三角屋根の家まで向かっている。云壇の神社から三角屋根の家までは車で15-20分くらい。

人間の脚で天護の神社がある山を降りるとなると2時間以上かかる…なのでこれが最短ルート。


「車出してもらって…ありがとうございます。」

云壇は人型に変身しているが、神姿の時とあまり顔は変わらない気がする。


「いいんだよ、もし何かあってもびっくりしないでね。」

「…え、なにがあるっていうんですか」


「経験上、一番ありえるのは妖しかな。僕達と同じ獣でも妖しになるものと神になるものがいてね。妖しになった奴らは定期的に喧嘩売ってくるの。つゆちゃんの存在知ってるとしたら、耳が早いね。奴ら相手なら喧嘩程度で殺し合いにはならないさ。…ややこしいのは魔の物だね…またはそれに操られる人間やその怨念。その場合、ちょっと戦わないとだけど…まあ大丈夫。」


「なんかどれも非現実で深刻さが分からない…けど大変そう。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



そうしているうちにつゆの家の前についた。

「うーん…なんか居るな。しょぼいのが。」

「は、あれ!弟の車!!!え?なんで!?尊!!!」


そこにあったのはつゆの弟・尊の車だった。

急いで車を降り、云壇の制止を振り切り家に入った。


「尊!!いるの!!?」


「ねぇちゃん!!こっち!2階!なんか変なんが!変なんがおって、ドア開けようとしてくる!!」


つゆは急いで2階まで上がる、弟の尊が一生懸命ドアを抑えて叫んでる。

内覧の時に“ポテンシャルのある部屋です”と紹介されてたその部屋は、

越してきてまだ何も置かず、ほとんど開けたことすらなかった。

今はその中から“グゥゥゥ…ガガガ…オォイ……”と何かの声が聞こえドンドンとドアを破ろうとしている。


「ここで音がしたからねぇちゃんかと思って…開けたら変なんがおったから慌てて閉めたんや!なんかしらんけど、力が強い…!」


「ていうか、なんでここにおるん?!」弟の横に走っていき、一緒にドアを抑える。


「ねぇちゃん携帯通じひんし、不動産屋が連続殺人犯かもしれん~とかいうてたら心配したんや!で…家来てみたら鍵開いたままやし!」


つゆの後を追って階段を登ってきた云壇、

「え?それ僕の事?!僕の事、連続殺人犯だと思ってたの!?」


「ちょっ…あとで話しますから、今は手伝ってください!」


2人で抑えていても押し負けそうになりドアが少し開く。

その隙間から見えたのは、暗い影に全身が濡れた髪のようなもので覆われている、この世のものではないなにか。

「なにこれ!!きもい!」


弟は自慢の大きな身体でドアに更に力を入れて抑える

「事故物件やから安かったんちゃうんか!!」


云壇は急がず焦らず、何かを探しいる。

「あー、ちょっと待ってね…あれどこいった?」

「云壇さまぁ!!!早く!!ドア壊されちゃう!」

「大丈夫、大丈夫。そいつしょぼいから。」


ちょうどよく、橙と蒼も到着する。

橙「つゆ殿!」

蒼「代わります!」


2人と交代し、やっと全身の力を抜くことが出来た尊とつゆ。

「はぁはぁ…これみんな姉ちゃんの新しい友達…?」

「あとでゆっくり説明する…ふぅ…」




云壇は着物の懐の中からやっと探し物を見付けた。

「…あぁ、あったあった。」

そして、小さい瓢箪を取り出した。


「さあ、お二人さん。ドア開けて大丈夫だよ。」


橙と蒼がドアを開けたら勢いよく飛び出して来た、黒い塊。


対面の壁に勢いよくぶつかり、分散、再集結する。

そして「こっちだよ」という云壇のほうに向き直る…。


黒い塊「オマエ…アノ…キツネ…ユルサンゾ…」


「誰ですかぁ?まぁどうでもいいけど…吸い込むからね。」

ニヤリと笑って瓢箪を開ける云壇、すんなりとその中に吸い込まれる黒い塊。

「はーい、終わり。やっぱしょぼかったね。きもかったけどね。みんな大丈夫?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


つゆは尊を、尊は姉・つゆを見て…お互い無事を確かめあった。

そして「なんですかこれ…まさか本当に事故物件なんじゃ…」と、つゆにその家を売った張本人に聞く。


「違う、違う。あれは生きてる人間の魂だねぇ。僕がこの土地を買うのを断った人間のだと思うよ。森を切り拓いて、木々を倒して、観光地を作ろうとしてたから祟ってやめさせたのよ。そいつらだね。」


「…は?」全員一瞬、“こいつ今なんて言った?”って顔をする。


「まあ国内外から資金も引っ張って来てたらしくてね、結構損をだしたらしい。で、この土地から受け入れられてるつゆちゃんに無意識に嫉妬して、ここに出てきたんだろうね。生身も生霊も怨念になってもしょぼいなんてねー。」


「姉ちゃん、せ、説明してくるかな。この人たち、誰…」

「うーん…どこから説明すれば…」


「君のお姉ちゃんは、この山に棲む猪神の恋人になったの。すごいよね?童貞神を一瞬で落としたんだよ。」

瓢箪をくるくる回しながらケッケッケッと笑ってる狐神。


「云壇様!言い方!これ弟なんですよ!あと‥それ回さないでください!」


尊は混乱している…「猪神…?恋人…童貞?何…?」


疲れてる上に混乱してる弟に、仕方なく説明する。

「あんね、姉ちゃんが山で迷子になって危険な時に助けて貰ったのが猪神様だった…みたいで…そのあと…まぁ…付き合うみたいな…そんな感じになったの。で、こちらの2人はその猪神様の使役の橙さんと蒼さん。で、この方が…云壇様。人間の時は不動産屋さん。連続殺人犯じゃなくて、狐の神様だったのよ…」と、あるがままに説明するかなかった。


尊の反応は「よくわからん…」と至極真っ当なものだった。

「そうやんな…まあおいおい分かってくると思う…私もよく分かってない。」


橙「ところで…つゆ殿、けがないですか?」

蒼「ちょっとでもしてたら俺達が叱られちゃう…」

つゆ「大丈夫です。それより云壇様からアレ取り上げて、天護様のところへ…」


橙「さ、云壇さま、それをこちらへ。」

云壇はつまらなさそうに「ぽいっと」っと言いながら投げて、蒼がぎりぎりでキャッチする。


橙「私と蒼はこのまま天護様の所へ戻ります。つゆ殿はどうされますか。」


つゆ「どうしようか、天護様心配してるだろうけど、弟がいるし…」

云壇「みんな、僕の社から飛ばしてあげようか?」

つゆ「え、あれ一方通行じゃないんですか?!」

云壇「ううん、違うよ。」

つゆ「知らなかった!便利だ!」

云壇「でしょ♪でしょ♪」


尊「なんの話か分からないけど、楽しそうだから姉ちゃんについてく。」

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