セリフしかない話

ゆずリンゴ

セリフしかない話

たかし「はあ……異世界転生かよ」


神「え? お前がそう言うのか?」


たかし「だって俺、トラックに轢かれて死んだんだろ?」


神「違う。君はただ寝坊しただけだ」


たかし「……は?」


神「学校に行きたくなくて、布団の中で『異世界に転生したい』って叫んだら、本当に転生した」


たかし「それ、チートすぎるだろ」


神「チートじゃない。君の妄想力が異常なだけ」


たかし「で、ここはどこ?」


神「勇者召喚の儀式場だよ」


たかし「俺、勇者?」


神「違う。見学に来た野次馬」


たかし「……マジか」


神「ほら、あそこに本物の勇者がいる」


たかし「うわ、キラキラしてる……」


神「ステータス見せてやる」


たかし「見せて」


神「名前:アレックス 職業:勇者 レベル:1 スキル:光の剣、癒しの奇跡、神の加護」


たかし「俺のステータスは?」


神「名前:たかし 職業:無職 レベル:1 スキル:妄想力MAX」


たかし「……返金しろ」


神「金貰ってない」


たかし「じゃあどうすりゃいいんだよ」


神「勇者のパーティーに入れ」


たかし「え、俺が?」


神「うん。荷物持ちで」


たかし「荷物持ちって……」


神「ほら、勇者が呼んでる」


勇者アレックス「タカシ君! 一緒に世界を救ってくれ!」


たかし「……いや、俺、無職だし」


勇者アレックス「大丈夫! 君の妄想力で、敵を説得できるかもしれない!」


たかし「それ、スキルとして認められてるの?」


神「認められてる」


たかし「……マジで?」


勇者アレックス「試してみよう」


たかし「よし、じゃあ最初の敵」


勇者アレックス「ゴブリンだ!」


たかし「ゴブリンさん、ちょっと待って」


ゴブリン「グギャ?」


たかし「君も働きたくないよね?」


ゴブリン「グギャ……」


たかし「一緒に寝坊しようぜ」


ゴブリン「グギャ……グギャ!」


たかし「……寝落ちた」


勇者アレックス「敵を寝かしつけた!」


神「新スキル『説得の布団』習得!」


たかし「俺、戦闘要員じゃなくて寝かしつけ要員かよ」


勇者アレックス「次はドラゴンだ!」


たかし「ドラゴンさん、おはよう」


ドラゴン「グオオオオ!」


たかし「まだ寝てる時間だよ」


ドラゴン「グオ……グオ……」


たかし「……また寝た」


神「ドラゴン、撃沈」


たかし「俺のスキル、チートじゃね?」


神「違う。敵が寝坊性すぎるだけ」


たかし「で、魔王は?」


神「もう寝てる」


たかし「……は?」


神「魔王城に着いたら、魔王が布団で寝てた」


たかし「起きてくれよ、世界の危機だろ」


神「『明日でいいや』って言って二度寝」


たかし「……俺のせい?」


神「君の妄想力が伝染した」


たかし「で、ラスボスどうすんだよ」


神「一緒に寝よう」


たかし「……え?」


神「勇者も、仲間も、魔王も、みんなで寝よう」


たかし「それで世界が救えるのか?」


神「救える。だってみんな寝不足だったんだ」


たかし「……なるほど」


神「じゃあ、おやすみ」


たかし「おやすみ」


勇者アレックス「おやすみ〜」


ドラゴン「グオ……スースー」


神「世界、救済完了」


神「エンドロール」


たかし「え、もう終わり?」


神「うん。寝るだけだから」


たかし「……セリフしかない話、だったもんな」


神「そうだよ」


たかし「次回作は?」


神「『起きたら全員寝てた話』」


たかし「……また寝るのかよ」


神「おやすみ」


たかし「おやすみ」




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