静かに丹念に描かれる情景はそれだけで異界の空気を纏っています。
特別な何かが起こってはいない風景に感じる人の気配のなさ。
その描写こそが冒頭、この物語の特別感を強烈に示していると思いました。
家事代行の若い女性。彼女の訪れる先の元学者らしき男性。
年齢、性別、社会的評価と全てが異なる中、個として働き、生きる二人はどこか軸に寄り添えるものを持っています。
しかし、男性は「二階」という女性が入ってはいけないタブーを与え、近付くことをよしとしません。
タブーは破られるのが物語のセオリー。
勿論、彼女はタブーを知るのですが、その知り方が何とも自然で、そのインパクトでストーリーを味付けはされません。それこそがこのお作品の深みを際立たせている、と存じます。
彼女はタブーを破る波乱より、そのタブーの中にあった事実と向き合うことに自らを投じました。
並大抵のタブーではなく、今時、黙してそれに人間として対処する人、特に仕事人はいないところを自然に、ひたすら真っ直ぐに平らな目と心を持って、タブーと数日の日常を生きるのです。
ここが余りにも素晴らしくて感動しました。
タブーについて謎ははっきりと明かされることはありません。
何がそうさせたのか、そうなったのか、そして、どうなるのか。
だからこそ、そこを自然と読者が考えます。
そして、その思考に女性の数日の目線が視座をくれるのですが、筆致の確かな静けさが強制はしない絶妙さでした。
科学かメルヒェンか、いや、今はそこに境界はあるのかとさえ、考える機会を頂いた小説です。