第1話 最初の出会い


俺――ヤマザキ・カイトは、異世界の石畳の上に立っていた。


尖った耳ののエルフが、犬のような獣人と楽しそうに談笑しながら通り過ぎる。街の空気は乾燥していて、土やハーブ、そして何か石炭のような匂いが混ざり合っている。


(信じられない……本当に異世界だ。ファンタジー世界のど真ん中!)


感動で胸がいっぱいになるが、まず冷静になろうと、カイトは近くの真鍮製の看板を磨いている店の窓に映る自分の姿を確認した。


そこには、見慣れた顔があった。


土木作業用のヘルメットは失くしたが、泥で汚れた作業服と安全靴。汗でぼさっとした黒髪。顔立ちは、特別に整っているわけでも、不細工なわけでもない、極めて平均的な日本人男性の顔。


「見た目は変わんねえな。まあ、中身が俺ならそれでいい。でも、これは転生ではなくて転移になるのか…?俺は誰かに召喚されたわけでもなさそうだし、どういうことだ…?」


俺は「冒険者カイト」としてではなく、「土木作業員カイト」として、この異世界に放り込まれたらしい。だが、問題ない。異世界には「成長補正」とか「異世界ではあり得ない」というチートが存在するはずだ。


俺は人通りから外れ、薄暗い路地へと足を踏み入れた。


まずは自分の能力を確認しなければ。


ドキドキしながらカイトはかの有名な呪文を発する。


「……ステータス、オープン」


視界の端に半透明のウィンドウが現れる。


名前:ヤマザキ・カイト

【レベル】12

──────────────

■基本ステータス

魔力:G

筋力:D

耐久:C

敏捷:E

幸運:C

──────────────

■スキル

・簡易翻訳

・魔力操作:入門

・呪文百科

・現代科学

・鑑定:入門

・生活スキル全般:入門

・料理スキル(上級)

├時短レシピ考案:上級

├大衆受けの味付け:上級

└調味料生成:中級

・謝罪の極意:上級

(※あらゆる場面で最適な謝罪ムーブを選択し、相手の怒りを30〜60%軽減します)

──────────────

■固有スキル(ユニークスキル)

・???(不明)


魔力『G』というのが、あまりに心許ない。それにレベル12って、すごく中途半端だな。俺は強いのか………?


「いや、待て。冷静になれ。俺は昔から身体を鍛えてきたんだ。それがスキルに反映されてるなら、筋力が高めなのは納得だ。それに、得意な料理スキルが高いのは当然だ」


料理スキルの詳細をもう一度確認する。


『時短レシピ考案:上級』、『調味料生成:中級』、『大衆受けの味付け:上級』


やっぱり、これらは俺が日本で培った『生活の知恵』の影響だろう。これらが残っていることは、ありがたい。だが、それでも……。


小説で読んだような「経験値爆上げ」、「世界一の剣の才能」といった能力は見当たらない。


(謝罪の極意はよくわからんが、呪文百科、現代科学、鑑定スキルあたりはチートっぽいな。でも、魔力Gで魔法なんて使えるのか?)


カイトは試しに「火球」と呟いてみた。しかし、何も起こらない。


「まあ、そんなもんか…?命懸けの転生なんだからもう少しチート感あってもいい気もするけどね。でも、最強勇者で無双とかだったらよかったなー……」


しかし、すぐに頭を振り、前向きに考える。


「いや、まだだ。俺の本当のチートスキルが、まだ『隠しスキル』としてロックされてる可能性だってある!それに本当の力なんて、あとからわかることもあるだろ


問題は、この後の行動だ。

俺はどこへ行けばいい?


……王宮とか、ギルドとか。そういう場所に連れて行かれるのが、よくあるパターンだろ?」


しかし、俺が立っている場所は、どう見てもこぢんまりとした地方の田舎町だ。華美な装飾も、巨大な宮殿らしきものも見当たらない。静かで、人々はどこか疲れているように見える。


金もない。この世界の貨幣制度なんて全くわからない。勝手に店に入って、何かを要求したら犯罪者になるかもしれない。ソワソワと不安が胸を占める。


どうする、どうする……?


ふと、その路地の奥まった影に目が留まった。日差しが届かない、石造りの建物の間の、ひんやりとした空間。


その影の中に、誰かが座っていることに気づいた。


最初はホームレスの男性かと思ったが、よく見ると小柄だ。フードを深くかぶり、古い毛布のようなものにくるまっている。


そっと近づくと、フードの下から小さな顔が見えた。


女性だった。


垢にまみれた顔だが、幼い頬にはまだわずかに丸みが残っている。年齢は十代半ばくらいだろうか。しかし、その瞳には、異世界に似つかわしくない、深い疲労と諦めが滲んでいた。


「……あの、大丈夫?」


カイトが声をかけると、女は怯えたように目を閉じ、さらに影に身を潜めた。


(まずい。いきなり警戒されてる)


彼女は、明らかにこの世界の「ホームレス」だ。


金もなく、行き場もない。そんな最初の出会いは、憧れていた異世界でのロマンスではなく、「社会の影」だった。

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