32.【過去】姉御とヴィクトールの出会い

【ヴィクトール視点】


「なんで私が買う分だけ値段が倍以上なんですか!」

「気のせいだよ元からその値段だったんだ。支払えねぇならあっち行けクソガキ」


最初はウォーカーの小娘が店で食べ物を売ってるお爺さんに値段を釣り上げられて文句を言ってる光景だった。別に外の世界で生きるものの扱いが悪いのはいつものことなので特に思うところはなかったが…


(小さいな…あまりに小さすぎる…)


その少女…幼女はあまりに小さすぎた。

身長は50cmくらい。

銀髪にピンクが少しかかった綺麗な髪をしていたが服はボサボサだ…しかし違和感がある…注視しているとあることに気づいた。


(あの幼女…肌艶が良すぎる?)


通常外の世界で満足に生きていけない人間はガリガリで如何にも【栄養が足りません】な見た目をしているが、この幼女は肌艶が良い。それは別にこんなところで物乞いをしなくても生きていけてるということだ。それに気づいた時には…始まってしまった。


「このクソガキ、じゃあ金を全部寄越せば1個くらい売ってやるよ!」


店主が足元にすがりついた幼女を蹴り飛ばそうとする。と店主の方が地面に叩きつけられた。見えなかった…


「私は正当な文句を言ってるつもりなんですが?理不尽に値上げして?その上暴力に出るんですか?お店の人がやっていいことじゃないと思いますね」

「ひぃ!いやぁー!!」


幼女は倒れた店主の頭を片手で持ち上げ…髪を毟り始めた。店主が抵抗しようとすると、顔を地面に叩きつけられ…地面に血が広がっていく。


「何とか言いなさいよ。あなた私に何をしようとしましたか?早く謝りなさいよ」

「す、すみまあぎゃ!」

「えっ?今何か言いました?」


店主が謝罪を述べようとしたら顎を砕かれる…ってか見てる場合じゃねぇ!


「おい!やめろ!」

「は?今私はこいつ蹴り飛ばされようとしたんですよ?普通なら重傷ですよ?なのにあなたは止めなかった。もしかしてあなたも共犯ですか?あなたも同じ目にあいますか」

「俺はシェルターの人間の味方だ。外の人間のことなんか知らねぇよ」

「そうですか、じゃあ共犯ですね」


顔の下にピリピリと嫌な予感を感じた。反射的に頭を後ろに、スウェーで回避する。

すると幼女の拳が俺の顎があった位置を通り過ぎていった。


「へぇー、イイ勘してますねあなた。しかし遅いです」


すぐに俺の両足の膝に激痛が走る。俺は立てなくなり座り込んでしまった。折られた…?


「ここです!この女の子が!」

「な、何をしている!」

「おい!両手を挙げて地面に伏せろ!」

「これはいったい…」


市民が他のスカベンジズに救援を求めたのだろう。応援に3人来てくれた…しかし


「やめ」

「あら?あなた達もこんな幼気な少女に暴力を振るう気ですか?人間としてどうかと思いますよ?」


俺の言葉を遮るように幼女が喋り、そして数秒後には3人が倒れた。一人は首がありえないくらいネジられ、一人は胸に穴を開けられ即死、一人は自分の向けたを銃取られ、それで撃ち殺された。


俺はその光景を見てることしかできなかった。

市民もスカベンジズが惨殺されようやく自分達の危機に気づいて騒ぎ始め、この場から逃げ始めた。


「ああ、やはりシェルターの中の人間は面白くありませんね。えっとあなたのお名前は…そう【ヴィクトール】って言うのですね?」

「あ、ああ…俺の手帳…いつ…」

「じゃあこの落とし前を付けに行きましょうか」


幼女は座り込んだ俺の襟元掴み引っ張り始めた。大の大人を余裕で引きずる少女の異様な力はどこから出ているのか…俺は抵抗する気力がもうわかなかった…


結局幼女はこの後シェルターの半分くらいのスカベンジズと、各お店を取りまとめるエリアマネージャー。富裕層に住んでいる人間を何人か殺して出ていった。そして帰り際に…


「…なんで俺を殺さない」

「あなたは見込みがありますからね。修練を積めばいい人材になりそうですし、特別に見逃して差し上げます?」


表面だけを取り繕ってるような気持ち悪い丁寧語と共に俺に返された手帳には幼女の連絡先が載っていた。


後日その丁寧語は本当に取り繕っているだけで粗暴な喋り方をする…そしてなんとなく機嫌が悪かったからという理由だけでシェルターに理不尽をバラまいた、やべぇ幼女だと言うことを知った。


そして俺は厳しい訓練や実戦を積み…努力した。努力した結果今の地位と信用を得たが…あの幼女にはまだ勝てる気がしない。だから俺はまだ強くならなければならない。結局シェルターの中でも強さがなければ、守ることも自分の意思を通すこともできないのだから。



そして現在へ…

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