21.隠れ家の一幕 その2
ウォーカーでも老衰するまで生きられるシリーズPart5
【生活編!シェルターのクソ野郎共に頼らずエルンを稼ぐ秘訣!】
『やあウォーカーのみんな!ウォーカーのみんななら誰しもシェルターでぼられた経験があるだろう!そんなクソ野郎共に頼らずに金を稼ぐ方法を…』
【サイン視点】
だんだんと『やあウォーカーのみんな!』の部分が頭に焼きついてきた。俺の今日の夢に若いロウさんが出てきそうだ。
アミューは真面目に動画を見続けている。きっとアミューにはとても面白いのだろう。俺は…確かに為にはなるがもう少しステップアップしたものが見たい…
動画の内容はまだ最初の方だからか、金が無い状態で如何にして生き続けるかといったものがメインだった。
『つまりこういったウォーカーの寄り合いが行われるポイントを自分の足で探し、物々交換から始め…』
『そして知らんやつに寄り合いの場所を聞くのは基本やめとけ。騙される可能性が非常に高く…』
『簡単な目利きの方法なんてもんは無いが、初心者ならまず物自体の価値を知っておけば集める時にも使えて…』
実際にロウさんが解説しながら自分で実践している。
『そしてこの通り!ぼられることなく正規の価値で取引ができるということだ!以上!次回の動画もきちんと見るんだぞ?』
Part5も終わった。そろそろヤミイチが来るかもなので1回動画を止めた。内容もちょうどいいしな。
「アミュー、1回止めるぞ?」
「えー、なんで?」
「実は俺の仲間を一人呼んでるんだ。アミューが今見てた取引を専門にやるウォーカーだな」
アミューの目がキラキラしていた。動画の内容を実践したくてしょうがないんだろう…でも…
「そいつはぼったりしないから動画の内容の実践はまた今度にしような?」
「えー、なんかつまんない」
「俺が頼んで人間の巣にある美味いもんをたくさん持ってきてくれてるんだが…」
「楽しみだね!」
「…その前に昼メシ食べとくかぁ」
「うん!」
昼食を食べ(アミューはもちろんヒュージガルガンを)、その後どの缶詰を売るかウンウンとアミューは悩んでた。
しばらくすると情報端末が鳴った。
「おっ、着いたみたいだな。迎えに行ってくるわ」
「うん…」
隠れ家の出入り口の罠を解除し外に出ると1台のトラックが止まっていた。運転席には気怠そうにしている男が座っていた。
「まいどぉ、ヤミイチでぇす…あれぇ?アミューさんわぁ?」
「何を売るか中で悩んでるよ。車両の出入り口は別にあるからそっちから入ってくれ」
「…あー、あのサインさんが作った無駄にデカくて動かない人形兵器の出入り口のことぉ…」
「ちゃんと車両用だぞ!そっちの罠も解除してるから」
「へぇい」
俺はヤミイチのトラックの助手席に乗り込み昨日姉御からもらった武装車を入れた時に使った地面に偽装された大きめの出入り口を開けた。
「ひゅ〜、サインさんの隠れ家ってお金かかってますよねぇ」
「我ながら金のかかる改造をしたと思うよ」
トラックで家の中に入るとアミューが駐車スペースにいてこちら見ていた。
トラックを降りてヤミイチがアミューに挨拶する。
「やぁやぁ、俺はヤミイチって言いますぅ。拾ったお宝を売買しちゃう人間だからぁ、もし良いものを手に入れたら売ってほしいなぁ」
「よろしく!ヤミイチ!」
「おー、元気ですねぇ」
握手はブンブンするのが基本なのか?アミューさん…
「ヤミイチ!これ買い取って!」
「おー、これが果物の缶詰ですかぁ。へぇ、どれも作りたてだからまだまだ保存期間があっていいですねぇ。中々の価値ですよぉ?良品を探すいい目を持ってますねぇ」
「えへへ、そう〜?」
アミューが褒められて嬉しそうだ。ってかそうか…保存期間…俺は見てなかったな。
「あれぇ?サインさんのは時間が経ったものが多いですねぇ。これじゃあ正規の売値の半額くらいになっちゃいますよぉ?アミューさんに負けてますねぇ」
「…正直そこを考えるの忘れてたわ」
ま、まあ俺は武器専だし?いいもんね〜。
「ではぁ〜、アミューさんの缶詰の査定は250万エルンでいいですかねぇ。サインさんはぁ…50万かなぁ?」
そんなに差…あるんです?
「いいよ!サインも次はいい缶詰私が教えてあげるね!」
「よろしく頼むわ」
まあまた缶詰に巡り会えるかはわかんないけどな。その時は是非お願いしよう。
「じゃあ〜、次はうちの商品をぉ…」
「あっ!待って!ヤミイチってお昼食べた?」
「まだですねぇ、おやおやもしかしてぇ?」
「私が作ってあげる!ちょっと待ってて!」
アミューは透明になり隠れ家から出ていったようだ。出入り口が開いて閉じた。
俺は何をアミューがしたいのか気づきヤミイチに俺の缶詰を気持ち多めにタダで渡す…
「…なんのマネですぅ?」
「迷惑料と…口直し用だ」
「俺は何を食べさせられるんでしょうかねぇ?」
大丈夫だヤミイチ、俺も一緒に食ってやる!娘の手料理を俺は父親として拒むわけにはいかんのだ!
待っていたらまた隠れ家の出入り口が開いて閉まった。アミューが手に持ったモノは透明になってないので浮いて見えるけど…そしてアミューも姿を見せる。手に持っていたのは…
「ハウンドぉ…ドッグぅ…」
そう、シェルター付近の外でよく見かけられるハウンドドッグだった。生物兵器だがパワーアーマー無しの大人が素手で倒せるレベルに弱い。しかし繁殖力はとてつもないため非常食としては味が酷いのを除けば優秀。
俺も昔金が無かったとき、よく食べたわ…水分もコイツの生き血を飲んで補給してたりする…
そしてアミューは反対の手に持っていた、昔のロウさんが被っていたやつと似た帽子を被り…
「やあウォーカーのみんな!今日はハウンドドッグをフードを自作しちゃうよ!」
ロウさんの真似事を始めた…
「すぅ…」
「ふぅ…」
ヤミイチが帰ろうとするので服を掴む。なんのために缶詰をタダで渡したと思ってんだコラ付き合え!
ハウンドドッグがアミューの手刀で真っ二つにされ、こねられ肉団子に変わっていく…
「塩はこのくらい!そしてひたすら茹でる!」
ハウンドドッグの血が溜まった鍋を俺のキッチンのコンロに置き沸騰させ肉団子を茹でている。凄いなぁ、鍋から血が噴き出まくってます?
コラヤミイチ!逃げるな!俺なんてアレを食べた上にあの血まみれキッチンを後で掃除しなきゃいけないんだぞ!
それから30分、死刑宣告をされた囚人のような気持ちで俺たちは待った。そしてアミューの作った肉団子が机に並べられる。
「ロウさん直伝!ハウンドドッグの肉団子煮込みだよ!」
「すぅ…あのジジイですかぁ…死因が俺になるかもしれないですねぇ?」
「すげぇ煮込むんだなホントに…」
俺は動画で見たから知っていたが、やはりかなり長く煮込むようだ。血が鍋にこびりつかないように適宜血を足して調整していたとはいえ…あの鍋は今度こっそり廃棄しよう。
「食べていいよ!」
血で煮込まれ真っ赤になった肉団子を俺とヤミイチは手が震えるのを抑えながら口に運ぶ…味は…
「味が…しないぃ?」
「無味?」
いや、塩は入れていたし、しょっぱいくらい味があるはずなんだが…無味はおかしいだろ。俺たちのリアクションを見て不思議そうな顔をしている。
「ロウさんは美味しそうに食べてたんだけどなぁ」
「アミューは…食べないのか?」
「弱い生き物食べたら弱くなっちゃうから私は食べないよ?」
そうですか…イツボシハンバーグの肉って確かシェルターの弱々生物の肉だったような…でも思い返して見たらアーマードの連中に無双してたとき、噛みついてるとこは見てない気がする。何が違うかわからないな。
突然ヤミイチがビクッ!として腰に付けていた水筒を開け何かを飲む。
そして俺の情報端末にメッセージを送ってきた。
『味覚が無くなってますぅ!』
はい?俺も横にあった水を口に含んでみた…確かに味覚がなくなってる気がする。
…なるほど、ロウさんのあの動画は確かに実用性はあったようだ…まさか自分の味覚を殺してドッグをフードを食べる方法だったとは…
『多分その内戻るよ…ロウさんだって今も普通に飯を味わって食べてるはずだろうし…多分』
『ちゃんと元に戻るんでしょうねぇ…』
「…何してるの?」
「いや、群れの一人からメッセージが来てたから返信してたんだ」
「そうなんだ」
アミューの初料理は俺たちの味覚を殺して終わった…そして味覚が戻ったのは次の日だった。
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