16.ミドリノシェルター跡地 ドクター
【サイン視点】
俺たち…というかほぼアミューによる蹂躙が終わり盗賊ウォーカー集団【アーマード】の群れは俺が攫ってきたボスを除いて全滅した。
「終わったよー」
ラプトルのような姿をしたままアミューが戻ってくる。身体が返り血と潰れた人間の臓物でとんでもないことになっている。
「先輩、元の姿に戻れるかしら?私携帯シャワー持ってるからその返り血は洗い流してしまいましょ?」
「戻れるよ!うん洗う!」
ミツガレがそのアミューの姿に耐えられなかったようで提案する。
アミューの身体が縮んでいき、元の、あの鱗が身体のあちこちについた姿に戻る。あー、服…破けたんだっけ。
「サイン、替えの服は?」
「ない」
「…先輩、私の予備の服あげるわ。サイン、あなた予備の服くらい持っていきなさいよ…」
知らんもん、アミューがあんな姿になれるなんて。初めて見たもん。そもそも俺だって探索は基本日帰りだから予備の服とか必要なかったし。
アミューとミツガレが簡易シャワー室を建て、シャワー浴びてる間、俺と鍵屋は気絶させたボスを意識しながら周囲を警戒する。
「いやぁ、さすが前線で戦う兵器達ってやっぱとんでもないですねぇ。」
「ああ、俺も改めて住む世界が違うなって思ったぞ」
ただ警戒しているだけでは暇なので鍵屋と雑談もする。
「そういえばアミューさん、ガードル製のミニガンでアーマード達の電磁バリア抜いてましたけど、あれってどうやったんでしょう」
確かに、ガードル製のミニガンは他のガードル製武器と同様で耐久製抜群だが威力がしょぼい。普通に撃っただけじゃマガジン全部撃ってもバリアが破れることはない。でも予想はできる。
「恐らくアミューは一点を集中して撃ち続けたんだと思う。一点を攻撃され続けたらいくら電磁バリアでもその箇所だけだんだんと脆くなるからな。アミューはあのミニガンで精密射撃ができるんだよ」
「おー、力技ですね。あの暴力に加えて射撃精度も抜群とかチートもいいとこです」
「でもそれでも足りないんだろ?最前線は…どんなとこなんだろうな」
「…いつかこの星自体が戦いの余波だけで滅びそうですよね」
雑談をしていると鍵屋が手に持っていた情報端末が鳴った。
っと同時にアミューが簡易シャワー室の目隠しの布から飛び出てきて警戒した。
「なんか凄いたくさんこっち来てる!」
「あー、アミューさん。警戒しなくていいですよ。俺たちの仲間です」
「仲間?あなた達ってソロが多いのよね?なのにたくさんの仲間ってどういうこと?」
ミツガレも簡易シャワー室をそのままにに警戒しながら戻ってきた。
「ドクターか」
「ええ、今端末にメッセージが届きました」
【ドクター】一人なのに軍隊を所有してるウォーカー。ドクターの周りにはドクターが作った肉人形がいつも控えており、その質は姉御いわく本気を出せばシェルター1個乗っ取れるレベルらしい。ただ別に本人は悪いやつじゃないし、病気や怪我をした時とかに頼れば、仲間はタダで薬をくれたり治してくれる。周りの肉人形達の異質さを除けば常識人枠なメンバーでもある。
「おお…でもいいの?本当に凄いたくさんいるよ?」
そんなに大勢で来たのか…ドクター手駒ほとんど出してきてないか?
しばらく待っているとドクターと肉人形達がやってきた。本当に凄い人数だな…ドクターはいつも通り自分のお気に入りの肉人形にお姫様抱っこされている。
「ふへへ、こんにちは皆さん。あっ、そちらのお嬢様方は新人のアミューさんにミツガレさんですね?私は【ドクター】というものです。今後ともよろしくお願いします。怪我とか病気とかありましたら私が治療して差し上げますよ?」
「ど、どうも」
「よろしくー」
ドクターの妙ちきりん…いや挨拶の内容は正しいがお姫様抱っこ状態が気になるらしいミツガレは自己紹介が頭に入ってるのだろうか。
アミューは動揺してない。流石だ。
「ふへへ、あとご苦労さまでした。姉御のけしかけたアーマードのメンバー」
「群れ!」
「ふへ?…ああ、理解しました。アーマードの群れをきっちり全滅させてくれて」
アミューの【群れ】へのこだわりを見抜いて一瞬で合わせてくれたドクターはやはり優しい。
「…やっぱり姉御でしたか」
「そうなんじゃないかと思ってたわ俺も」
消去法的にね?この場所を知っていてアミューにもバレない目を持ってるのは姉御くらいだから姉御かなぁって…
「姉御ってあんた達…というか私たちのリーダーよね?なんで仲間の私たちを襲わせたのよ」
「ふへへ、アーマードは実は姉御が育てた組織だったんですよ。姉御は今回の畑と缶詰工場の発見に大いに喜んでます。なので育てたアーマードを送り込んであなた達に倒してもらい、アーマードの群れが所有していたトラックを全部頂戴。あとはそこに私が所有しているトラックも足して、肉人形達でマンティスの駆除…と後始末と畑と工場の回収しておしまいって感じです」
アミューが暴力の権化というなら、姉御は悪辣の権化っていうのかもしれない。人の心はないのか!そうなってくると敵だけどアーマードの人達が可哀想過ぎる。意識を戻し気絶したフリをしたボスが泣いてるぞ!
「ふーん、よくわかんない。わかんないけど畑と工場って回収できるの?」
「ふへへ、私の得意は人海戦術ですからねこれだけお膳立てしてもらえば2日でできます」
「じゃあじゃあ!また果物食べれる?」
「ふへへ、食べれますよ。時間はかかりますでしょうけどきっとね」
「やたー♪」
アミューが跳ねて喜んでいる。
「あんた達って…どんな群れなのよ」
「正直俺もよくわからん」
ミツガレはやることの規模のデカさにドン引きしている。あと俺も本当に知らない。組織の全容を知ってるのはきっと姉御本人だけだろうな。
「そういえばそのドクターを持ってる人。凄い強いしドクターのことめっちゃ好きなんだね!ドクターを守るために気合入れまくってるよ!」
ドクターとドクターを抱えていた肉人形がアミューの方を見る。
「えっ、わかるよ?普通に声も聞こえるね」
「ふへ…アミューさんもしかして…もしかして【マリアンヌ】の言葉がわかるのですか?」
「うん、普通に喋ってるけど…」
ドクターがお姫様抱っこされた肉人形から降りアミューにしがみつく。おい、俺の娘に何してんっだっ!って言いたけどそんな空気でもないか。
「聞いて!聞いてほしいことがあるんです!こんな姿になってまで生きらながらえたことを後悔してないか…」
「…うんうん、後悔してないって言ってるよ?ドクターを守って死んじゃったけどドクターが助かって良かったって。死んだ後もドクターを守れることも嬉しいって」
ドクターは蹲って泣いた。そして後ろに立っていた肉人形もドクターを抱きしめている。アミューもドクターを撫でてあげている。イイハナシダナー。
「…ちょっと、話がコロコロ変わりすぎて私ついていけないんだけど」
「ついていけるようにしてあげよう。この写真に写ってるのが生前のマリアンヌさんの写真だ」
「なんであんたが持ってるの…よ…」
ミツガレが凍りつく。
ドクターと一緒に映ってるのはドクターより身長二倍くらい大きいゴリゴリマッチョな漢だった。このお方がマリアンヌさんです。
「すぅ…まあ人の好みを私たちがとやかく言う権利はないわね」
鍵屋も話に混ざり始めた。
鍵屋もマリアンヌさんを知っているので感動しているようだ。
「そうですよ、あと2人は昔バカップルと言っても過言ではないくらい仲が良かったんです」
「俺は2人のバカップルっぷりを見てるのが正直好きで、それが見れなくなって少し残念だったんだ。ドクターも死にそうなくらい落ち込んでたしな。だから実は俺も結構嬉しかったりする」
俺たちはドクターが落ち着くまでその光景を眺めていることにした。
まだ時間がかかりそうなのでアーマードのボスさんの頭を蹴飛ばし、もう一度気絶してもらって。
「あんたも結構酷いやつね…」
ミツガレの俺に対しての好感度がゼロになった気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます