ある魔女裁判の結末
ミュオソティス
ある魔女裁判の結末
1692年3月1日マサチューセッツ州セイラム村
後の歴史上悪意にまみれた最悪の悲劇となるセイラム魔女裁判が行われた。これは、アビゲイル・ウィリアムズとベティ・パリスという少女が奇行に走り、医師により悪魔憑きと診断されたことを発端とし、無実の人物が魔女に仕立て上げられ最終的に約200件の告発・19名の絞首刑が実施された。
この物語は、そんなセイラム村の悲劇とは別の、ある小さな村での魔女騒動である。
ここはセイラム村から少し離れた小さな農村である。18世紀に移り変わる年であり、ピューリタンの入植者が増えてきたことにより、多少人口が増えたが、それでも100人程度の小さな村であった。その中で、ある5人の仲の良い少女たちがいた。齢10歳のソフィ、エリー、メアリー、ハンナ、エレノアはこの小さい村の中では同年代の子供もほとんどいないので必然的に仲良くなった。
ソフィ達は、最近大人たちに隠れてある遊びをしていた。それは、占いだった。コップの水の中に卵白を落とし、その形から将来の夫の職業を解釈するという占いであった。これは、最近移住してきたある大人達が内緒話で話していたのを聞いたものであった。大人たちが内緒にしていたので、怒られるのを恐れた少女たちは、こっそり集まって、占いを楽しんでいた。
まずソフィが、コップの水の中に卵白を落として、その形を占った。
「くつの形になったわ、きっと将来の夫の職業は、くつ職人かしら」
「私も早くやりたいわ」
エリーがそんなことを言ってきた。
「もう、少しくらい私の話を聞いてもいいでしょ」
「いいから、やらせなさいよ」
ソフィはそんな物言いのエリーに少し嫌な気持ちになりながらもコップを手渡した。
「はいどうぞ」
「ありがとっ」
コップを受け取ろうとしたエリーが手を滑らせて落としてしまった。パリンッと音が聞こえてきたと思ったときには粉々になってしまった。
「ちょっとエリー。どうしてくれるのよ、こっそり家から持ってきた高いコップだったのに」
「仕方ないでしょわざとじゃないわ」
「それが謝っている態度かしら」
そんな具合に、ソフィとエリーは言い合いを始め、手まで出そうとした。
「ちょっと二人とも、ケンカはやめてよ」
二人のやり取りを見ていたメアリー、ハンナ、エレノアが止めに入った。
「だって、エリーが謝らない上に手を出そうとしたから」
「ソフィだってわざとじゃないって言っているのにそんな言いようないじゃない」
二人の喧嘩は、ヒートアップしていき止められそうになかった。その時、メアリーが手をパンと叩いて注目を集めて言った。
「とりあえず今日はいったん解散して、明日話し合いましょ」
「……わかったわ」
二人はしぶしぶ納得して、5人は解散した。ソフィは、コップを持ち帰れないので、誰の目にもつかないところに隠してから家に帰った。
家に着いたソフィは、そのまま自分の部屋に向かった。
「聞いてよ、お姉ちゃん」
そう言うとソフィの姉イザベルが答えた。
「どうしたのかしらソフィ」
「今日エリーが私の持って行ったコップを割ったのに謝りもしなかったの」
「そうなの……それはひどいわね」
「ほんとに」
イザベルは、ソフィの話を肯定しながら優しく宥めた。しばらく、イザベルと話していると父スコットが夜ご飯ができたと呼んできた。
「私はもうご飯を食べたから先に寝るわ」
イザベルはそんなことを言った。イザベルは、寝ることが好きで、ソフィと話しているとき以外は、寝ていることが多かった。
「わかったわ」
そう言って、ソフィはスコットとともに夜ご飯を食べる。
「ソフィ、セイラム村を知っているかい?」
スコットは唐突にそんなことを聞いてきた。
「セイラム村?」
「最近ピューリタンの移住者が増えただろう、移住者たちは何でもセイラム村から来たらしい」
「どうして、セイラム村から来たのかしら?」
そういうとスコットは、眉を顰め、いうかどうか少し悩んだ様子を見せながら話した。
「魔女を恐れてきたらしい」
「魔女?」
「魔女とは、悪魔と交わり特別な力を授けられた人間で、人に害を及ぼす存在のことだ。セイラム村では、数年前に魔女として告発された娘たちから連鎖的に多くの人達が魔女として告発され処刑されたんだ」
スコットはそんなことを言った。
「こわいわ」
「ああ、本当にな」
「魔女は具体的に何をしているのかしら」
ふと気になってソフィは尋ねた。スコットは誰にも言うなと念を押してから言った。
「セイラム村で悪魔憑きと疑われた少女は、卵白をコップの水に落として浮かんだ形を読み取るという占いをしていて、それで突然犬が吠えるような奇声を発するなどしたらしい」
それを聞いてソフィはビクッとした。
「どうしたソフィ」
「何でもないわ父さん」
ソフィは何でもないと取り繕うようにスコットに言った。
ソフィは、どうして大人達が、占いのことを隠していたかに気づいた。おそらく、子供がまねしないようにするためにこっそり隠していたようだと思った。
「今日はもう寝るわ」
そう言って、足早に部屋に戻った。
部屋に戻ると、イザベルが音に気づいてか起きたようだった。
「あら~、ソフィ……」
寝ぼけながらそう話しかけてきた。
「お姉ちゃん聞いて!」
そう力強くソフィは、先ほどスコットに聞いた魔女の話をし始めた。話を聞き終えるとイザベルは、恐ろし気に言った。
「それは怖いわね、あなたも気を付けなさい」
そう言ったイザベルの言葉を聞いた時、震えながらソフィは言った。
「お姉ちゃん……実は私達今日その占いをしていたの」
「どうしよう、私たち悪魔にとり憑かれてしまうわ」
そうイザベルに言うと、イザベルは真剣な声音で言った。
「私が、他の子たちを魔女として告発するわ」
「あなたは巻き込まれた被害者として、教会の牧師様に悪魔祓いをしてもらえばいい」
ソフィにとってその言葉は衝撃的だった。
「でも、仲良しなあの子達を告発だなんてしたく……」
したくないと言おうとしたとき、今日エリーとケンカしたときのことを思い出した。ソフィは、エリーが悪いのになんで私がこんな目に合わなければいけないのと感じた。
「……おねがいお姉ちゃん」
「ええ、わかったわ」
その後ソフィは、眠りについた。
翌日の朝、イザベルが誰にもばれないように、牧師様に告発しに行った。エリーが魔女であり、他の子達を巻き込んで魔女の儀式を行ったと言いに行くらしい。
ソフィは、昨日みんなと占いをした場所まで行った。まだ誰も来ていないようだった。しばらく待っていると、メアリー、ハンナ、エレノアが来た。
「ソフィおはよう」
「おはようメアリー、ハンナ、エレノア」
「エリーはまだ来てないの?」
そうメアリーが聞いてきた。
「うん、まだ来てないようよ。きっと私に謝るのが嫌なのよ」
「エリーは割と真面目だから来ると思うわよ」
そうハンナが言った。
「でも来ていないわ」
「しばらく待っていれば来るわよ」
そう言ってソフィ、メアリー、ハンナ、エレノアは待っていた。しばらくしても来ないので、いい加減少女達が待ちくたびれていると、誰かが少女たちに近づいてきた。それはこの村の神父様であった。
「君たちがソフィ、メアリー、ハンナ、エレノアであっているかい?」
この村の神父様はそんなことを言ってきた。ソフィは返事をした。
「そうよ」
「それは良かった。君たちが魔女によって悪魔憑きの儀式を受けさせられたって、匿名で告発を受けたんだ」
神父様はそういうとメアリー、ハンナ、エレノアは震えて声が出ないといった様子で座り込んでしまった。通りかかった周りの大人達も魔女という言葉を聞いた途端、悪魔のような形相で近づいてきてソフィ達を怒鳴った。
「それは本当か!」
「この村でも魔女が出たのか!」
怒鳴り声に委縮して更に黙りこくってしまったソフィ達を置いて、神父様と周りの大人が話し合っていた。
「神父様、それが本当ならば今すぐ処刑しなければなりません。この子達も今すぐ悪魔祓いを行うべきです。」
「もちろん承知しております。今は、魔女候補を教会にとらえて尋問しております。」
「それは良かったです。一刻も早く魔女を見つけてください。」
そんなことを言い合っていた。ソフィ達はその後、教会に連れていかれ悪魔祓いの儀式を受けた。儀式はあっという間に終わり、少女達はすぐに家に帰され、しばらく外出禁止を言い渡された。
数日後、エリーの魔女裁判が行われることが村中に通告された。魔女候補のエリーと被害者とされているソフィ、メアリー、ハンナ、エレノアは出席を義務付けられた。この村には判事がいなかったので、セイラム市から判事を招き、神父様が魔女であると証明するらしい。魔女裁判は、外の広場で開かれた。
魔女裁判が始まった。
まず、神父様が宣言した。
「判事様、この者は魔女でございます。それをこの場で証明いたします。」
そのように宣言して神父様は、紐で厳重に縛られたエリーを近くにある小さな池の前まで連れてきた。
「魔女は、軽々と空を飛ぶことができます。よって、水に漬けて浮けば有罪、沈めば無罪です。」
そう言って、右手と左足、左手と右足の両方を頑丈そうな紐で縛った。すぐ引き上げられるように刑吏がその両端を握っている。その後すぐに水中に放り込まれた。
エリーは浮かんでしまった。
「これで魔女であることが証明されました。この者は、仲よく遊んでいた子供たちを騙し、悪魔憑きにさせようとした邪悪な魔女です。絞首刑にして、処刑するべきでございます。」
神父様は、そう判事に述べた。
「私は魔女じゃないわ!」
「だれか信じて!」
エリーは神父様や少女たちに対してそう叫んでいた。
「邪悪な魔女めが、この期に及んでまだ認めぬか」
神父様は大人ですら恐れるほど恐ろしい形相でエリーにそう言った。少女たちは、そんなエリーを悪魔を見るような目で見つめていた。
「ソフィ、メアリー、ハンナ、エレノアあなたたちも一緒になってやってたでしょ、そもそもあの占いはメアリーが教えた占いじゃない!」
そうエリーが叫んだとたん、少女達や周りの大人達がメアリーを見つめた。
「違っ、私は魔女じゃない。」
「それを言うならハンナだって魔女じゃない!」
「えっ」
メアリーは震えながら言った。
占いは、メアリーとハンナが大人たちの内緒話を聞いたことから始まったことである。周りの大人はそのことを知らないが、少女たちは知っているので、お互いを魔女扱いしているようだった。
「私は関係ないわ!」
「何言ってるのよメアリー。あなたがほんとは魔女なんじゃないの!」
「違うわよ」
そんなことをお互い言い争っていた。エレノアはそんな3人を疑わしげに見ていた。
「魔女め、メアリーとハンナに魔法を使って不和を引き起こしたな」
「違うわ!」
「「この魔女め」」
神父様や民衆まで話に入ってきて、大騒ぎになってしまった。その後、判事が場をなだめると、
「皆さん落ち着いてください。まずはエリーについての判決を言い渡します。」と告げた。
それから、エリーは絞首刑が決まった。メアリーとハンナに関しては、エリーが魔法を使いメアリーとハンナを操って、自分の罪を逃れようとしたということになり、魔女扱いされることはなかった。エリーの処刑は、翌日の朝行われることになった。
メアリーとハンナは、お互いを罵倒しあいながら家に帰っていった。エレノアは、そんな二人を恐れているようだった。
「メアリーとハンナも魔女なのかな?」
「わからないわ、エリーが魔法を使った可能性が高いと思うけど」
「でも、あの占いはメアリーとハンナが教えてくれた話でしょ。もしかしたら、自分たちが魔女だってばれないようにエリーを魔女だって告発したのかもしれないよ」
エレノアは、メアリーとハンナが魔女だと疑っているようだ。他の大人が見たらエレノアが魔女扱いされそうなほどひどい顔つきであった。
「とりあえず、明日の処刑は見とどけましょ。友達だったのだから」
「……うん」
ソフィはエレノアにそういって、帰路に就いた。
ソフィは家に帰ると、すぐに部屋に戻り、イザベルに話しかけた。
「聞いてよお姉ちゃん」
「どうしたのかしら」
「今日魔女裁判でエリーが魔女に認定されたわ」
「……そう」
イザベルは少し、悲しそうにしながら返事した。
「私が告発したとはいえ、元々あなたたち仲が良かったから、少し罪悪感があるのよ」
「気にしなくていいわお姉ちゃん、神父様も言っていたけど水に沈めて浮かんだんだもの。きっと魔女なのよ」
「……そうね」
それ以外話はせず、ソフィとイザベルは眠った。
翌日の朝、広場には大勢の人がいた。真ん中には、昨日まではなかった大きな絞首台が設置してあり、エリーがその台の前に手を縛られたまま連れ出されていた。
周りの民衆は、魔女を殺せと叫んでいる。ソフィがエリーをよく見える位置まで移動するとそこには、エレノアがいた。
「おはよう、エレノア」
「……おはよう、ソフィ」
エレノアは、明らかに寝ていなそうであり眼に隈ができていた。
「寝てないの?」
「うん、悪魔に憑かれるかもしれないから」
「……」
エレノアは、正気ではなさそうな様子であった。
「エリーは今日処刑されるけど、まだ、メアリーとハンナがいる。あいつらが消えないと私は悪魔に…」
「エレノアあなた大丈夫かしら?」
「大丈夫よ私は正気、むしろあなたこそ大丈夫なの?
ほんとは魔女じゃないでしょうね」
エレノアはそう吐き捨てて、どこかに行ってしまった。
「エレノアっ」
追いかけようとしたところで、丁度処刑が始まろうとしていた。神父様が絞首台まで来て、民衆に語り掛けた。
「皆様大変お待たせしました。これより魔女の処刑を始めます。」
そう言った瞬間、広場では大歓声が響き渡った。エリーは、民衆や神父を恨めし気ににらみつけていた。
「魔女よ、最後に言い残すことはありますか?」
「私は魔女じゃない!」
「もしも私が魔女ならば、お前たち全員ここで呪い殺してやる」
エリーは最後に呪詛を吐き捨て、絞首台に首を掛けられた。
「うっっtぅ」
数分間呻きながら、そのまま死んでいった。
処刑が終わった後すぐにエレノアは、神父様のところに来ていた。神父様は心配そうにエレノアに語り掛けた。
「こんな時間にどうしたのですか?」
「やっぱり、メアリーとハンナも魔女だったの!」
そう突然告げた。神父様は驚きながら、理由を尋ねた。
「どうしてそのように思うのですか?」
「あいつら、今日の処刑に来てなかったから、気になって家に行ってみたの」
「そしたら、昨日あんなにお互いのことを疑ってたのに今日は仲良くしてたの!」
「きっとエリーが処刑されてあざ笑っていたの、裁判の時も示し合わせていたのよ」
そう神父様にまくしたてた。その後神父様は、頷きながら話を聞いていた。
「ならばまた魔女かどうか判定する必要がありますね」
「明日メアリーとハンナを魔女裁判に掛けましょう」
神父様がそう言うと、エレノアは邪悪な笑みを浮かべ、嬉しそうに感謝を述べて教会を去った。
ソフィが家に帰ると、今日もまたすぐに部屋に向かいイザベルに話しかけた。
「聞いてよお姉ちゃん」
「どうしたのかしら」
いつも通りにソフィの話を聞こうとてくれていた。
「今日、エリーの処刑があったんだけど、エレノアも魔女かもしれないわ」
「……どうしてかしら?」
「明らかに正気じゃない顔してたし、私のことを魔女かもしれないって疑って来たのよ!」
「早くエレノアを告発しないと私が呪い殺されちゃうわ」
そんなことをイザベルに言っていた。イザベルは、それを聞くとわかったわと言って、
「今日の夜、エレノアを魔女だって告発してくるわ」
と言った。それを聞くとソフィは安心しきった表情を浮かべ、イザベルに向かって感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、お姉ちゃん」
その夜、ある少女も教会に居る神父様を尋ねた。
「神父様お話ししてもよろしいでしょうか」
「どうしたのですか?」
ソフィは、真剣な顔をしながら、神父様に用件を伝えた。
「エレノアが魔女かもしれないわ」
それを聞くと神父様は驚いた顔をした。
「何を言っているのですか、エレノアは昼に私の元を尋ねてメアリーとハンナが魔女の可能性があると言っていたのですよ」
それを聞いて少女は、だからこそですと言った。
「エレノアは、絞首台に居るエリーを明らかに正気ではない顔で見ていたわ。それにメアリーとハンナは、裁判の時エリーに魔法を使われていたと結論が出たのに疑っていて怪しいわ。自分の疑いをそらそうとしているようにしか見えない」
そう言うと、神父様はうなりながら
「確かに怪しいですね。まあ、怪しいならば魔女裁判の際、神による判定を行えばよいだけです。」
と笑顔で言った。
少女も肯定し、家に帰った。
翌日、神父様より村中の人達が集められた。
「皆様方、朝早くからお集まりいただきありがとうございます。本日は、また魔女候補が現れたので早急に魔女裁判を開く必要がございます。」
そう言いながら、メアリー、ハンナ、エレノアが手足を縛られたまま連れてこられた。
メアリーとハンナはエレノアを、エレノアは2人を恨めしそうに睨みつけながら罵倒していた。
「やっぱりお前たちが魔女だったんだな。私を魔女だって告発して、自分たちは逃れようとして」
「違うわよ、私達は改めて話し合ってエレノアが怪しいと思っただけよ」
「静かにしなさい。お前たちが魔女かどうかはこれからわかります。」
神父様が宥め、魔女裁判開廷のための準備を始めた。神父様は判事の人にあいさつをしている。メアリーとハンナ、エレノアは刑吏に捕まっており、お互いのことを罵りあっている。民衆は、もう少女たちが魔女であると決めつけて、魔女めが、と罵倒をぶつけていた。ソフィは、民衆の中に紛れて事の顛末を眺めていた。
しばらくすると判事が魔女裁判の開廷を宣言した。そしてなぜか神父様が、前回とは別の手段で魔女を判定すると言い出した。
「どうして別の手段を使うのか述べてください」
判事がそう問いかけると神父様は、
「邪悪な魔女は、前回の判定法を見て対策しているかもしれません。ですので、毎回方法は変えるべきです。」
と言った。
その言が認められて、別の方法を用意しているようだった。
「今回は、魔女の秤を使います。」
魔女の秤とは、片方の秤に女性が乗り、もう片方に重りを載せ、親方が測定して一定の体重、すなわち99ポンド以下であれば魔女、それ以上であれば魔女ではないという証明になるというものである。
メアリー、ハンナ、エレノアがそれぞれ順番に秤に乗った。秤は99ポンド側に偏った。判定法に従えば、全員が魔女であった。
「やはり全員が魔女であったようです。」
そう神父様は、判事に言った。当然メアリー、ハンナ、エレノアは反論しようとしたが、今回は近くにいた刑吏に押さえつけられたので、何も言うことができなかった。
その後は結局絞首刑が執行されることが決まり、翌朝に広場で処刑されることになった。
翌朝、広場で処刑が始まった。ソフィは呪われることを恐れて、目立たないように見に来ていた。
エリーが処刑された時と同様の設備が3つあり、三人が並べられていた。三人は、散々お互いのことを罵り合って飽きたのか、自分たちの末路を創造して絶望したのか、何も話しておらずどこかを眺めていた。
「皆様方朝早くからお越しいただきありがとうございます。これより邪悪な魔女の処刑を開始します。」
神父様はそう言って、処刑人に指示をして慣れたように準備をし始めた。その間、ソフィは三人を見つめていたら不意にエレノアと眼があってしまった。エレノアはソフィの方を見て、何かを言っているようだった。遠くだからよく聞こえなかったが口パクで【悪魔と契約してでもお前を許さない】と言っているように見えた。
その後は、前回の処刑時と特に変わらず苦しそうにもがき苦しみながら3人の少女が死んでいった。
数日後、ソフィは村を歩いていると、大人たちの話し声が聞こえてきた。
「の子が魔女かもしれない」
よく聞こえなかったが、そう言っているようにソフィには感じられた。それを聞いて恐ろしくなり、急いで家に帰った。
家に帰ってすぐにイザベルに相談しようと思ったのか、部屋に直行した。
「お姉ちゃん!」
「どうしたのかしら」
イザベルはいつも通りの返答をした。
「どうしよう、私が魔女だって疑われてるかもしれないわ」
「落ち着いて、まず最初から教えて」
イザベルにいさめられたソフィは、ゆっくり大人達が自分のことを話していたと伝えた。
「そうだったの……」
「助けてお姉ちゃん!」
「どうすればいいのかしら」
そう聞き返したイザベルにソフィはなんとなしに言った。
「お姉ちゃんが今まで魔女をでっち上げたことを自白して」
「…………」
「本当に言っているの?」
「うん」
「…………わかったわ」
そう言ってイザベルは、悲しそうに、しかしはっきりと返答した。
ある日の夜、神父様の元に少女がやってきた。
「ああ、また君ですか」
神父様はなれたように出迎えた。少女はいつも通りに、魔女の存在についての告発をしに来たと言った。神父様は、もう疑いもせずに尋ねた。
「誰が魔女ですか?」
「イザベルです」
「イザベル?誰だいそれは……」
「ソフィの姉よ」
「そういうことだったのかソフィよ」
神父様は目の前の少女ソフィの状態について理解した。
「君が魔女だったのか」
「今まで、友達を魔女だと告発してきた君が」
「私はソフィではなくてイザベルよ」
ソフィはイザベルであると主張しているが、神父の耳にはもう届いていない。もう、自分が誰であるかもわからないのかもしれない。
その後の顛末は語るまでもない。ソフィは裁判でも自分で自分を魔女だと言ったので、裁判はあっという間に終わり、村中を陥れた魔女だったので、最近では行われていなかった火炙りの刑に決定した。
処刑日は今までで一番民衆によるバッシングが酷かった。火炙りですら生易しいという声がそこら中から聞こえてきた。当事者であるソフィは、ずっと独り言を話している。処刑中ですら誰かと話していた。
「おねえちゃん、やっとまじょをみなごろしにできたよ」
ある魔女裁判の結末 ミュオソティス @Acetoone
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