魔法少女マジカル♡モモコ 38歳

下上右左

第1話 魔法少女の定番? 約束の時、来たる!

「いつもすみません」

「大丈夫、大丈夫! 気にしないでよ。

 これもママさんのお仕事だし。

 娘さん、お大事にね」

「……ありがとうございます」


(なんで体調不良の娘のお迎えが『ママの仕事』なの!? パパだってできるじゃん!)


 ビルを出てからようやく怒りを表に表した。

 笑顔で送り出してくれている課長は何も悪くない。なのに愚痴が止まらない。

 なんでもない言葉にすら、過剰に反応していちいちピリピリする自分が本当に嫌になる。

 『私は悪くない』と言いたくなる気持ちが抑えられない。

 もちろん娘は悪くない。

 だけど最近娘は体調を崩すことが多く、心配より先に「またか」と思うことに罪悪感もあった。

「だめだめ、切り替えて行こ! よし!」



 『うん! 任せて****、絶対だよ! 約束する!』


 ガクンと揺れて目が覚めた。

 5月の昼下がりの電車の揺れは、疲れた体に最高の眠りを提供してくれていたようだが、会社を早退したのに電車で寝過ごしたら目も当てられない。

(起きられてよかったあ)

 小さく伸びをしながら、私は今見た夢を思い出す。


 子供の頃、私はまさに夢見る少女だった。

 いつか自分も魔法少女になれると信じきって、近所の猫とも本当に会話してるつもりだった。


(今まで忘れてたのに、まさか自作の呪文まで夢に出てくるなんて……)


 猫相手に変身呪文や必殺技を大真面目に話してたんだ。あの猫もいつしか居なくなってたのに、本当に『その時』が来たら迎えに来るって、世界を守るために戦うんだって信じてた。


(今の私は娘のためだけの戦士だ! がんばらなきゃね!)


 小児科帰りにゼリーや果物を買い込んだ。

 ただの風邪だし熱は大した事ないけど、雫はすぐ食欲が落ちてしまうから。

 もう小学5年生なのに、娘は先頭争いするほどチビで細い。


「あ、猫だあ。猫!」

 娘の言う通り、毛足の長い真っ白な猫が我が家の玄関の門の前で丸くなっている。

 私が何か言う前に、猫にさっと手を伸ばした雫。一瞬ヒヤリとしたが、猫は大人しく抱かれてくれた。

「急に抱っこなんてダメ!

 猫が驚いて雫を引っ掻くかもしれないんだから……」

「わかったってば。ねえ見てママ、どこの子かな? 綺麗な目〜」

 娘と覗き込んだ猫の目は、まるで星を散りばめたような黄色と緑の綺麗なマーブルで……夢の中の猫と瓜二つだ。


「僕だよモモコ。ほっしぃだよ」


 猫が名乗った。

 猫の声と共に、私の脳裏にさっき見た夢がはっきりと浮かんだ。


――――――――――――――――


 『私が地球を守るの?

 魔法少女じゃん! すごーい!』

 『魔法少女?』

 『そう! 魔法のステッキで変身して悪と戦うの!』

 『へえ、いいね。

 そのマホウってなんだい?』

 『魔法っていうのは……』


  ……

  …


 『じゃあ約束だよモモコ。その時がきたら……』

 『うん! 任せてほっしぃ、絶対だよ! 約束する!』


――――――――――――――――


 そう、確かにこの子だ。でももう30年も前の話だ!

 私の戸惑いを他所に、猫は言った。



「約束の時が来たんだ!

 君の力を貸して!

 魔法少女マジカル♡モモコ!」

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