第3話 太白金星の何に触れるか

 で、李長庚りちょうこうこと太白金星たいはくきんせいは八十一難の手配に四苦八苦しつつ、道教世界の天庭せんていと仏教世界の霊鷲山りょうじゅせんが隠している秘密を暴きそうになる。そのため、やおら上層部の三官殿で尋問されたり、上層部の西王母せいおうぼに釘を刺されたり、霊鷲山りょうじゅせんの妨害にあったり。


 もう「男、外に出たら敵が8人」状態。


 ところが、さん、タフなんです。見かけは白眉のおじいちゃんだけど、めっちゃタフ。逞しい中間管理職。粘る粘る、簡単に放り出さない。


 ああ言えば、こう言う。この手でダメならあの手。押してもダメなら引いてみる。内柔外剛。最後の手段は正直な心と思いやり。それで観音かんのんも彼に一目置くことに。


 こうして難題を粘り強く解決したり、躱したりしながら、観音大士かんのんだいしの一言で、仙界での昇進にトライすることに。


 昇進には仙道の修業がつきもの。金仙(高位の神仙)に至るにはその境地を悟る必要があります。

 仙人の精神に起こる変化が興味深い。

 

 特に内面の葛藤を可視化した元嬰げんえいの出現は驚きでした。

 元嬰げんえいとは道教の体内神の一つで赤子の姿、へその下三寸が居場所。李長庚りちょうこう元嬰げんえいは正念と濁念がそれぞれに主張します。


 正念は「孫悟空そんごくうを訴えに来た六耳ろくじというサルの文書は役所に転送し、すべきことは終わった」と言い、濁念は「六耳ろくじは一介のサルで何の後ろ盾もない。李長庚りちょうこうが気にかけてやらねば役所はほったらかしのまま」と言う。

 仙界で昇進するためには濁念の主張は無視すべきと李長庚りちょうこうは考えるが、良心から発生した濁念は黙っていません。


 李長庚りちょうこう元嬰げんえいは神通力で闘いはじめ、正念が濁念を殴打します。バイオレンスですね。赤子のくせに容赦ない。この描写はちょっと衝撃でした。


 こうした李長庚りちょうこうの昇進の道と良心の対立がとても魅力的で、彼はどうやって金仙へと昇るのか。ミステリーとあいまって、そちらも大変気になる。というか、終盤はそれが主軸になります。


 李長庚りちょうこうの濁念こそ、なんとかして生かしたい。私はそう願いながら読んでいました。

 物語は時に残酷ですし、また、そうであればあるほど哀切の落差に心が動くものです。孫悟空そんごくうの冷笑と毒舌の理由が分かり、彼の最後の身の振り方にも心が動きました。


 ともあれ、太白金星たいはくきんせいは非常に人間的な神仙でした。そのため、彼の元嬰げんえいの争いは私には「人間どうあるべきか」という問いとなりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る