第10話 要請

 向かいの男が死んだようだ。年も離れているのであまり関りが無かったが、魔の山を調べに行って死んでしまった。仲間を逃がすために、自ら自爆したこの男も、英雄として広場の墓石に名を連ねるのだろう。行為自体は英雄的であるが、魔物を追うこと自体が軽薄であったのではないかと思う。まあ、口に出すことは出来ないが。何の能力も無い、平凡な村人として過ごすしかない俺たちが何を勘違いしたのか騎士や冒険者の真似事などすべきではない。結果はその命が示すことになるのだから。まあ、生き残った奴らはもう余計な真似はしないだろう。だが、今回の動きで魔物を余計に刺激をしたのではないだろうか。死んだ男は、今までの状況を事細かにまとめていた。そして、生き延びた奴らの話を聞いて、俺は領主へ王国騎士団の派遣を要請した。僻地とは言え、我々は王国の国民であり、彼らは我々を守るべき義務がある。その為に、税を納めているのだ。

 しかしそれは建前であり、領主すら自らの領民を守るような気概は無い。自分のところに被害が及ぶのであれば、対処をするだろう。国王にしてみれば、この村の存在すら知らないだろう。だから、領主には危機感を、国王には利益を感じさせるような文章にしなければならない。そう魔物の脅威と魔の山の財宝。脅威はともかく、財宝があるとは限らないが、小鬼すら武器を使うぐらいだから、何かあるだろう。それに集落で見た建物は王都にも無いものだ。それだけでも価値があるはず。

 王都への連絡には早くとも数週間はかかる。その間の対策の為、村人総出で、柵や堀をつくり、防衛線を作った。幸い、周辺の村々もここに集まり、一時的に避難してきたので、労力も確保できた。魔物は相変わらずに襲ってくるが、組織だった動きは無く、単発であり、人も増えたことで夜回りも楽になった。目先の脅威は薄れたように見えたので王国からの応援が来ないことも悲観的に感じることは無かった。あの日までは。

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