第4話 娼館にきた小娘
私はあの小娘と娼婦モナルフィを連れて玄関スペースに戻った。
「いらっしゃいませ、今夜も楽しんでいってくださいね」
私は、玄関で私に見蕩れているお客様達に深く礼をする。
お客様は担当の娼婦に連れられ、名残惜しそうに廊下へと消えていった。
横に並んだ小娘も同じように頭を下げていて、ほっとする。
穏やかなバイオリンの調べがはっきり聞こえてくる。
フロアの端で、娼婦、あれは人のシレーヌが開館時にいつも奏でている。
あれが売り上げに繋がるかはわからないけれど、あれがここの格式の一つ。
客の波が止んだところで、休憩用のソファに二人と供に座った。
小娘は、テーブル越しに私の正面に座ったが、モナルフィは座らず私のそばに来て耳打ちをした。
「えっ?」
そして私に一枚の紙を渡した。
「本物ですね、見覚えがあります」
私は、その紙を眼を落とした。確かに、それは夢見館が発行した無料宿泊券だった。
これは、副都市長の依頼で作った覚えがある。
当時、まとまった上客の売上が欲しかった事を思い出した、それにしても…
「なぜ、これを持っている?」
私は目の前の青いドレスの小娘を見た、言い方が怖かったからか小娘は明らかに委縮している。
また、ここでお漏らしでもされたら困る。
私はモナルフィに視線を送った。
モナルフィは私の意に応じて小娘の横に座って、軽く小娘の肩を抱いた。
もし小娘が無料宿泊券の正当の持ち主ならば、私は大きなミスをした事になる。
二人が小声でやり取りをしている。
私がここで腕を組むと高圧的に見えるは、困ったものだわ。
受付は、気になるのか、ちらちらとこちらを見ている。
「あのですね、このお嬢さんは、ハーディロゼ・ルクスディオンと言うそうです」
モナルフィが小娘に代わって、私に答えた。
「ルクスディオン?ここの副都市長のレオニスは確か、レオニス・ディオンよね」
私は、無料宿泊券の副都市長のサインを確認する。
「ディオン家は、ルクスディオン家の分家だそうです」
「つまり、親戚ってことか!」
思わず声が大きくなってしまった。
受付からガタッと何かが落ちる音がした。
そして、目の前の小娘がコクンと頷くのが見えた。
「昼間に庁舎に行った時に秘書から貰ったそうです」
これが小娘でなく、少年だったら、ここで至高のサービスを施して私のミスをチャラにする選択肢もあったはず…私は軽く唇を噛んだ。
「私の早合点だった、どうすれば無かったことにしてくれる?」
それでも、私はどうしても、この小娘に許しを乞うマネはできなかった。
「私に同じ辱めを望むのかしら、構わないわよ」
私の最大限の譲歩なことは、モナルフィの驚いた顔で娼婦達なら分るのだが…小娘には無理か。
「私の願いに協力して欲しいとの事です」
「ハーディロゼちゃんの願い?」
願いと言われて、からかい半分の子供扱いで台詞を重ねた。
ただ、子供ゆえに無理難題を吹っ掛けてくるのだろうか、少し不安になる。
(あの屋台の油まみれ、ニンニクたっぷりの鶏肉を一緒に食えとは言わないでよ)
どう見ても世間知らずのロゼちゃんの考えがわからない。
「自立したいそうです」
「は?」
それを聞いて思わず声が漏れた。
正直、ほっとしたわ。改めて、彼女の願い咀嚼する。
ヴァンパイアの私は気が付いた時には、自立していたが、人はそうではない。
なるほど、親離れをしたいという事だろうが、娼館を仕切る私にそれを求めるのか、この小娘は少し足りないのだろうか…
「協力はできるけど、本人の覚悟が肝心だろう。ただ、覚悟があっても娼婦は無理」
憐みもあって我ながらまっとうな返事をしてしまう。
もちろんこの小娘が化けるかも、いや、面倒を見る筋合いはない。
というか、副都市長の親戚ということは、小娘も貴族ではないか。
「なら、見学したいそうです」
いい加減、私に直接話しなさいよ、別に怒っちゃいないから。
それともモナルフィに懐いているのか?一皮むけばコボルトにか…
(見学ね…)
聞けば年齢は17歳、まあ、そっちの経験は無いだろう。
「お安い御用だわ、夢見館を案内してあげる」
私は立ち上がった。
「そうだ、どこかの宴会に晩餐をお呼ばれしてみるのも悪くないわね」
私はポンと手を叩いた。
思い付きだけど悪くない、でも私は少し意地悪な顔をしていたかもしれない。
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