第14話 若頭と呼ばれた男
俺の予想はピタリと的中した。
やっぱりこいつら、ヤクザだ。
俺は思わず深い溜息を吐いた。
「おう!どうなんだ!」
と、別のヤクザが俺たちの格好に気づいた。
「兄貴、こいつら男同士でペアルックを着てますわ」
するとまた別のヤクザが言った。
「ゲイカップルがこんなところで何してんだ?朝っぱらから
どっとヤクザたちが笑った。
大笑いだ。大うけだ。皆、下卑た笑い声を上げながら、俺たちを
不快だ。そして不本意だ。腹の底から怒りが湧き上がってくる。
こいつら、どうしてくれようか。
だがその時、雷鳴のように鋭いドスの利いた声が辺りに鳴り響いた。
「静かにしろ!朝っぱらだぞ、ご近所様に迷惑じゃねえか!」
途端に男たちは黙り込み、その声の発した方向に深々と頭を下げた。
俺が男たちの隙間を縫って覗き込むと、門の向こうに見るからに高級そうな車と、その後に従うように並ぶ二台のフルサイズバンが見えた。
と、その高級車の後部ドアが開かれ、男が降りてきた。
叱られたヤクザの一人が、その男に向かってすかさず言い訳をする。
「
かしらか。昔、映画で見たな。確か、若頭のことだ。結構偉いんじゃなかったっけ。それにしては若いな。見た感じ、三十前後じゃないか?
「うるせえ。黙れ」
そして鋭い眼差しで周囲のヤクザたちを威圧しつつ、こちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
ひゅう~。俺は心内で口笛を吹いた。
短く切り揃えられた清潔感のある髪型。薄く怜悧な眉に、涼やかな目元。鼻筋はソルス程ではないにしても高く通っており、口元はきりっと引き締まっている。そして男は仕立てのよさそうな三つ揃えの、白に細い黒線の入ったスーツを完璧に着込なしていた。
こいつは渋いねえ。ソルスとはまた別種の男前だな。
「すまねえな。迷惑をかけた。こいつは詫びだ。とっといてくれ」
男はそう言うと胸元から財布を取り出し、中からお札をごそっと全部抜き出して、俺に向かって差し出した。
「えっ?いや……それは」
俺は一瞬戸惑ったものの、すぐにこいつは渡りに船ではないかと思い返した。
何と言っても俺たちには先立つものが必要だ。それはつまり金だ。それが今、目の前にごそっとある。
それも結構な枚数だ。一万円札が十枚以上はあるんじゃないか。てことは、十万円以上だ。
それだけあればめっちゃ助かるぞ。ヒッチハイクもしなくてすむ。
だがいいのか、俺。ヤクザから金を恵んでもらって受け取るのか?
悩む。これは悩むところだ。
と、男がさらに言う。
「いいから取っておいてくれ。これは俺の気持ちの問題なんだから」
そ~お?それならいいか。だってそちらさんの気持ちの問題だしね。
俺は頭の中で金勘定を弾き出すと、ありがたく受け取ることにした。
「あ、じゃあ遠慮なく」
男は口元に笑みをたたえながらうなずくと、サッと踵を返した。
そして颯爽と歩いて、再び高級車に乗り込んだ。
男たちが花道を作るように二列に並ぶ。
その中をゆっくりと高級車、それに続くように二台の大型フルサイズバンが進んでいき、道路に出るなりゆっくりと左折して、静かに走り去っていった。
ヤクザたちは車が彼方に消え去るのを確認すると、俺たちを睨みつけながらも何も言わずに邸内へと戻っていった。
俺はそれを「どこか別の組事務所に殴り込みにでもいくのかな」などと考えながら見送ると、手の中にある大量の一万円札を見つめた。
思わず笑みが浮かんでしまう。さっきは十数万円位じゃないかと踏んでいたけど、今手の中にある感触では二十万円以上はありそうだ。これなら旅費に苦労はしないし、美味い飯も食えるというものだ。
この場で確認するのは少々下品ではないかと思いはしたものの、待ってはいられない。
俺はすぐさま手の中の一万円札を数え始めた。
一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。
いいねえ。どんどん行こう。
十一、十二、十三、十四、十五、十六、十七、十八、十九、二十。
まだまだ。
二十一、二十二、二十三と。
なんと合計二十三万円也!
凄え。ヤクザ凄え。一体どんな稼ぎ方してるのか知らないけど、とにかく凄え。
たったあれっぽっちのことで、お札を数えもせずに二十三万円もパッと差し出すなんて、いやあ豪気だねえ。
だが、とにもかくにも助かった。これで旅費も食事代も宿泊代も、すべてまとめて
俺は止まらないニヤニヤの笑みを浮かべたまま、隣にいるであろう男をちらと見た。
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