第33話

 丘を駆け上るユウとパジャマ。


『ポン、ポン』


 パジャマがつづみを小さな肩にのせて軽やかに叩く。その音はまるで、進撃のリズムだ。

 鼓の音が響くたびに、ユウとパジャマの心力しんりょくが高まる。

 そして、草花が二人を「がんばって」と応援するかのように、鼓の音に応えて風に揺れる。

 その自然が織りなす声援に導かれ、大気中の魔素マナが二人へ集まっていく。

 丘の頂にたどり着いたふたりの眼前には、獣魔じゅうまの群れが地を蹴って迫っていた。


「こわくないよ!」


 ユウがパジャマに向けて大きな声を上げる――でも、その半分は自分自身への言葉でもあった。


『ビーストモード!』


 ロイが名付けてくれた、二人の必殺技。見た目に変化はない。けれど、その名を叫んだ瞬間、気持ちは猛々たけだけしい獣である。胸の奥で何かがぐっと燃え上がる。


「ひきつけて~」


 ユウとパジャマが手をつなぎ、獣魔の群れをしっかりと引き付ける。

 つないだ手から伝わるのは「ひとりじゃない」ことのあかし

 二人で一緒にいれば、怖くない。

 大好きなヒユウとリサを守るのだから強くなる。

 そんな想いが二人の心力を高め、光り輝いていく。


「せーの!」


『がおおおおおお!!』


 二人がつないだ手と共に両手を掲げ、かわいらしくも力強く咆哮ほうこうをあげる。

 想いのこもったその叫びが、光をともなう衝撃波となって、獣魔たちを一気に吹き飛ばした!


「ふふ~ん♪」


 してやったりとばかりに見つめ合い、ニコリとドヤ顔を交わすふたり。

 その小さな胸には、誇らしさが満ちていた――だが、小さな英雄たちの戦いは終わらない。

 吹き飛んだ獣魔の向こうから、新たな念魔ねんまたちが群れを成して現れる。


「パジャマ、にげるよ~!」


 ユウの合図にパジャマが急いで鼓をリュックへしまうと、ユウを自分の背中に乗せる。

 今度は手足を使って、子熊のように草原を駆けだす。

 ヒユウたちがいる方向とは逆へと向かう。小さな背中に再び宿るのは「守る」ための決意。

 そう、ユウとパジャマは、おとりとなって念魔を引きつけようとしていたのだ。

 しっかりと囮作戦を果たそうとするユウとパジャマの前に……二人の男女の姿が現れる。

 ユウが満面の笑みでその男女の名前を呼ぶ。


「カイン! シホ!」


 どれほど嬉しかっただろうか――そのままハイタッチを交わす四人。


「ナイスファイト! 立派な勇者だったぜ。後は、俺たちに任せてくれ」


「ええ、かっこよかったわ。ユウとパジャマは、ひいのところへ」


「わかった!」


 もう一度、バトンをつなぐかのように手のひらを合わせると、ユウとパジャマが走っていくのだった。

 その後ろ姿を誇らしげに微笑みながら見つめるシホが、カインと視線を交わす。

 目と鼻の先に獣魔たちが迫ってきている。


「さあて、仲間を守ってくれた勇者に贈る、最高の一撃を見せないとだな」


 カインが心剣に手を当て前かがみになるが——


「ひきつけて~♪」


 シホの大きな声が響く。


「へ?」


 不意をつかれたカインが、心剣を構えたままシホへと顔を向ける。


「ふふふ」


 そのカインに、いたずらっぽく笑みを浮かべ、手を差し伸べるシホである。

 何をするつもりかは、すぐに察しがついたカインだった。

「本気ですか?」と、口には出さないが目が語っている。

 けれども、嬉しそうにカインが意気揚々と手を差し出す。

 二人がお互いの手を取り、大きく深呼吸をして、そして——


「せーの!」


『ガオオオオオオ!!』


 滝中最強の剣士による、ユウとパジャマを真似した気合十分の咆哮ほうこう炸裂さくれつする。

 獣魔たちが、風に吹かれた木の葉のように一瞬で吹き飛んでいく。

 そして、ユウとパジャマのように互いの顔を見合わせる。

 カインの顔には、妹のリサがよく見せるはにかんだ照れ笑いが浮かび――シホは、天使のような、満面の笑みをカインに向ける。


 ――この瞬間を、二人は一生忘れない。


 それは、ふたりだけの記念日を刻んだ咆哮でもあった。

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