第11話
ヒユウは、ロイが自分に様々なことを教えてくれているのを、最近は特に感じていた。
それは、ロイと話したあの日からだ――
星空の下でタケイと話し、翌朝にリサと会ったヒユウは、すぐにロイの家を訪れた。
「ロイ、昨日のキマイラ戦のことだけど……」
そうヒユウが話を切り出すと、ロイはすっとレポートを差し出した。
「これを見ながら話そうか」
「……これは?」
それは、ずっと以前から、丁寧に記録されているヒユウのレポートだった。
「今は前線で一緒に戦うことは減ったけど、君のことを知ってるという点では、誰にも負けたくないからね」
ロイが穏やかに微笑む。生まれたときから隣にいた存在だ。
――ロイのことなら、誰よりも知ってる。
そう思っていた自分と同じように。ロイもまた、自分を知ってくれている。
「最近は、心力の揺らぎもほとんどなくなってる。そこを、見てごらん」
そう言われて、ヒユウはレポートの
「これは!」
「
「じゃあ、ブレスが僕に効かなかったのは?」
「加護とか耐性以前に単純なレベル差だね」
ヒユウが驚いたまま黙ると、ロイが微笑みを向けた。
「驚くことないよ。あのカインやシホの動きに、しっかりついていけたんだから」
「合わせるだけで精一杯だったよ」
「それがすごいんだ。それに、心力の数値は『戦闘力』じゃない。邪念と向き合える『心の強さ』だからね。逆に、心力がなければ、どんな技も魔法も
「うん。大事なことだね」
「全体的に見れば、心力をスキルにのせる力は、まだカインやシホには敵わないし、そこは二人に学べば良いさ」
「うん! そうだね!!」
嬉しそうに同意するヒユウに、ロイが思わず笑みをこぼす。
「二人は滝山の必殺技だものね」
「そうさ。あの二人が組めば安定感は抜群だ。頼れる仲間だよ」
レポートを見返しながら、ヒユウはロイを見つめた。
「ロイの説明って、本当にわかりやすいよ」
「ありがとう。……まあ、ヒユウが来ると思って慌てて準備してたからね」
そう言って笑うロイを見ながら、ヒユウは胸の奥に響く彼の優しさを感じていた。
――いつか自分が来る日を信じ、しっかりと準備していてくれたのだと。
それがロイという親友であることを。
「ありがとう、ロイ。……もっと早く来ればよかった」
「ううん。来てくれて、よかったよ」
ロイが優しく微笑みを向けた。
「ロイ……」
「うん? なんだい?」
ロイはヒユウが来た理由を察している。けれど、ヒユウはあえて言葉にした。
「僕はリサが好きだ。ずっとそばにいたいって、ちゃんとそう思ってる。だから、自分の心に向き合って、それができるようになってから……ちゃんと想いを伝えたい」
「うん、決心したんだね。楽しみにしてるよ」
ロイは柔らかく笑いながら、続けてアドバイスを送る。
「でも、あんまり気負わないでね。『こうしなきゃ』って思い込みすぎると、タイミングを逃すこともあるから」
ロイはヒユウの想いを、その気持ちを抱いた時から知っていた。だからこそ、ヒユウが幸せになることをずっと願っていた。
「ヒユウはもう、自分とちゃんと向き合ってるよ。心も、想いも。だからこそ、揺るぎない心力が出せている。リサもきっと、同じだよ」
「そうだね」
ヒユウは、キマイラ戦で、リサが放った『光』の強さを思い出す。
「リサの心力が一瞬、君を上回ったのを感じたんでしょ?」
「うん。わかってたよ。あの時の、リサの『強さ』は本物だった」
ロイが口元に手をあてる。
「リサの心力の話になるなら、レンも呼んだ方がいいかな。ちょっと待ってて」
そう言って部屋を出ていったロイが、しばらくして、お菓子をトレイに乗せたレンと戻って来た。
レンは両親を失って以来、姉のアリスと共にロイの家で暮らしている。
「レン、お邪魔してます。静かだったから、寝ているのかと思ったよ」
「夢中でドローンいじってたんですよ」
レンの答えに、ロイはふっと微笑む。レンが気を利かせて、ヒユウとロイの時間をそっと見守っていたことを知っているからだ。
「お菓子をどうぞ。このクッキー、おいしいですよ」
「ありがとう」
ヒユウは、差し出されたクッキーをひとつ手に取り、口へ運ぶ。
「ん? リサが来たの?」
あまりに即答だったので、レンが目を丸くし、ロイが笑いをこらえる。
「さすがにヒユウだね。君が来る少し前に来たんだよ。入学式や入隊式で撮った写真を渡したから、そのお礼だってさ」
ヒユウが口元を緩める。すぐお礼を届けるのがリサらしいと思った。
「それで、リサの心力の話だったね。レン、グラフを出してくれるかな?」
「はい、こちらです。リサちゃんの心力は、瞬間的に跳ね上がる時があります。
ヒユウさんと比べると、それがより
「心力解放の影響もあるのかな?」
「はい、それもあると思います。でも理由はさておき、この高さは確かに際立っています」
レンが指差した波形のグラフには、いくつか鋭く跳ね上がる線があった。
心力の高低を決めるのは――その人の「心の源」、つまり『心源(しんげん)』によるところが大きい。
ゆえに、誰もが自分の『心源』を正確には知らない。
だからこそ『なぜ高いか』を議論するより、『どう向き合うか』が重要だった。
「心力を解放した直後に、それを完璧に制御するなんて普通は無理な話さ。だからしばらくは、今まで通り『どう念魔の意識を逸らすか』が大事になる」
「うん。僕がそばにいれば、リサが狙われないようにできる。ちゃんと、僕に目を向けさせるよ!」
ヒユウの嬉しそうで満足げな顔が、ロイとレンの笑顔を誘った。
ただ、ヒユウを囮にして解決することなど二人にはあり得ない。
「突発的な戦闘以外では、リサの参戦自体を事前に調整するよ。それなら、戦術で守ることもできる」
ロイの言葉に、レンも
「僕も、ドローンと僕の心力をリンクできるように調整しておきます。一応、心力もそこそこあるので、カモフラージュにはなります」
他に囮となるものを作ってヒユウの負担を軽くしようとするレンだった。
「そこそこじゃないよ。レンのドローンにどれだけ助けられてるか。ね、ロイ」
「ほんとだよ。情報収集、魔力の回復、術式の補助と全部が戦力の中核だ」
尊敬する二人に言われて、レンは照れくさそうに頭を掻いた。
「ヒユウ?」
「なあに?」
「明日からは、もっといろんなことに触れてみるといいよ。能力を伸ばす訓練も大事だけど、それ以上に『周りを知る』ことは、心を安定させる。つまり、心力を安定させる鍵になるんだ」
「うん! そうするよ。ありがとう、いつも話を聞いてくれて」
「いつでも来てくれよ。剣術は、カインやシホほど教えられないけどさ」
そう言って笑うロイに、ヒユウも笑い返す。
今でこそ知的なイメージのロイであるが、一度も彼に剣術で勝てなかったことを思い出していた。
「僕はまず、心力を暴走させないことを気をつけないとだね」
ヒユウがすました表情を見せる。けれども、その裏にあるヒユウの不安を一瞬で見抜くロイだ。
「ヒユウ?」
ヒユウが顔を上げると、ロイはレンの方へ視線を送る。
その合図に、レンがまっすぐ頷いた。
「それは僕たちが、絶対にさせません」
力強く、透き通る声だった。
日ごろから思っているからこその声音だった。
ヒユウは、少し目を細めて、にっこりと微笑む。
「じゃあ、次に来たときは最初からレンもいていいよ。どうせ、心が繋がれば想いも伝わるしね」
レンが気を遣って自室で静かにしてくれていたことを、ヒユウは気づいていた。
「それはそれです。お二人の時間を邪魔できませんから」
レンがきっぱり言う。
ロイは、そんな二人を微笑ましく見つめていた。
まだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。