ハイスペコミュ障陰キャオタクくんは意外とモテるらしい
おおにし しの
コミュ障VSギャル
僕――
黒板付近ではクラスの男女の陽キャ軍団がふざけて遊んでいる。あの人たちはなぜ女子と普通に話すことができるのだろうか。僕なんてまともに話せないんだぜ?
「なあかしゅみ」
「何?」
読書中にも関わらず、今話しかけてきたこいつは
僕はコミュ障だが、こいつとは話すことができる。同じクラスで席が前後になったかと思えば僕に話しかけてきた。「ねえねえ、名前なに?俺は葉梨 栞!名前が女子みたいだけど一応男だよ」と。もちろん僕がまともに返せるわけもなく、かろうじて出た言葉は「か、かしゅみ」だ。今思い出しても笑えてくる。なんだよ「かしゅみ」って。その影響で今でも栞には「かしゅみ」と呼ばれている。
そこからというもののずっと話しかけてくるもので、こっちもだんだんと慣れていき、今では普通に話せるようになった。
「お前って意外とモテてるよな」
「そう?そんな話聞かないけど……」
「あれ?クラスの女子とかよくお前の話してるよ?」
「え?あれって陰口じゃないの?」
僕が休み時間に本を読んでいるのには理由がある。
いわゆる「バリア」を張っているのだ。もちろん、読書が好きだからという理由もある。だが、牽制の意味でもある。
読書は目と頭しか使わない。つまり耳がフリーなのだ。だから周囲の声はよく聞こえる。そのため、耳をフリーにして「お前らの声は聞こえてるぞ」という牽制をしているのだ。
だから、たまにクラスの女子の話の中に僕の名前が挙がっているのは知っているが、遠くて話の内容は聞こえなかった。こんなコミュ障陰キャの話だから「あいつキモくね?」みたいな陰口かと思っていたが……。
「なんだよ陰口って……。よく俺にお前のことを聞いてくる女子とかもいるぞ。『葉梨くんって浜浪くんと仲いいよね?』って」
「僕のことって何?もしかして弱み?」
「んなわけないだろ。お前は他人のことをなんだと思ってるんだよ。普通に趣味とかだよ」
「だって女子って怖いじゃないか!女子のいじめって陰湿だって言うし」
よくトイレに呼び出して水をかけたり……なんて言うのは作品によくあることだ。
「実際にしてるかは知らんが、それは女子間での話だよ。基本的に女子は男子受けを気にしてるからな。お前みたいなイケメンとかには特に」
「あれ?そうなの?よかったー……っていうか僕がモテるわけないじゃん。こんなコミュ障陰キャだよ?」
「はぁー……ったく、お前、自分のこと何も理解してないな」
「いやいや、そんなことないよ。ちゃんと理解してるって」
「ふぅん。じゃあ言ってみろよ」
「コミュ障でs陰キャでVオタでTCGオタでアニオタだろ?」
「悪いところだけだな……」
「栞、お前全国のオタクを敵に回したな?」
「あ、ごめんごめん。でもお前ほかにいいとこもあるぞ?顔がいいし、勉強も運動もできるし、優しいし」
「別に否定はしないし、そう言ってくれるのは嬉しいけど、女子からモテるほどじゃないだろ?」
第一、僕は女子から話しかけられたことなんて一度もないからな?
「それはお前がバリアを張ってるからな」
「あ、そうか」
「あと、無口なのはクールって捉える人もいるらしいぞ?」
「……いいような解釈だな」
「そんなもんだろ」
僕と栞が話をしていると、ある女子が僕の席に近づいてきた。
「お、星じゃん」
「梨っちやっほー!」
「浜浪くんもやっほー!」
僕の目を覗きながら手を振ってくる。それに反応してつい目を逸らしてしまった。
それに気付いたのか、星さんは少し残念そうな顔をした。
やばい、何でもいいから反応しないと。この人を敵に回したら僕の学校生活が終了しちゃう……。
「……あっ、ど、どう…も」
かろうじて聞こえるか否かというほどの声の小ささだったが、それが聞こえたのか、星さんが笑顔になった。よかった……機嫌を損ねないで。
「で、どうした?」
「んーっとね、浜浪くんと何を話してるのかなーって思って」
「僕の会話なんてそんな面白いものじゃないですよ!」
なんて言えるわけがなかった。
なぜ僕の話を聞きたがるのだろうか。栞が言っていたことは本当なのか?いやいや、そんな事はありえない。
「そんな面白いもんじゃないぞ」
「別にいいの。面白そうだから聞きに来たわけじゃないから」
「じゃあなんでだよ」
「はぁ?別にいいでしょ。あんたには関係ないし」
「……はいはい」
栞は「お手上げだ」と言わんばかりに、肩を竦めて両手を広げるオーバーリアクションをとりながら、諦めたような表情をした。
そこはもうちょっと粘ってくれよ!無理だよ!ギャルと話すなんて!
「ねえねえ、何の話をしてたの?」
「あっ……え、あ、その……」
「うんうん」
やばいやばいやばい!無理無理無理!!これ以上話したら死んじゃう!!!
「えっ、と……あ、え、あ……」
「うんうん」
あれ、なんだか手が震えてきたぞ?寒気も感じるし頭もふらついてきた。これガチで死ぬんか?僕。
とにかく、保健室行かなきゃまずい。でも会話を中断したら何されるかわかんないし……。
と、回らない頭を使ってあたふたと考えていると、星さんが返事のない僕にしびれを切らしたのか、はたまた僕は外から見ても体調が悪いのか、「大丈夫?」と僕の顔に自らの手を伸ばしながら聞いてきた。
この状態で女子に触られたら倒れちゃいそう……。
「っ!何よ」
「星、そこまでにしといてあげな」
そのとき、栞が星さんの手と僕の顔の間に手を割り込ませて僕を守ってくれた。
やばい、栞がめっちゃかっこよく見える…惚れてまうやろ……。
「海澄が限界だ」
「嘘、浜浪くん、ごめんね。気づかなくて」
星さんが謝ってきた。意外と優しい人なのかも……。
ああ、そんなこと考えてる場合じゃなかった。僕、今にも倒れそうなんだった。
「かしゅみ、保健室行くか?肩、貸そうか?」
「……っ……」
声も出ないほど限界だったのか……。
どうにか返事をしようと、首を小さく縦に振った。
「じゃあ行くか」
そういって栞は僕を保健室まで連れて行ってくれた。
「栞ぃ……大好きぃ」
「あ、大丈夫です」
「ひどいよ〜」
ハイスペコミュ障陰キャオタクくんは意外とモテるらしい おおにし しの @Mira-Misu
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