第5話 情報収集と訓練

 前線基地のざわめきが肌に刺さる。兵士たちは慌ただしく走り回っていて、ここが“休む場所”じゃないことくらいすぐ分かった。千隼は肩にかかったバッグを直しながら、依月と一緒に指令所へ向かった。依月は俺の袖をつまんだまま、無言。

 顔は淡々としてるのに、指先だけちょっと冷たくて頼りなくて、それが逆に俺を落ち着かせた。


 中ではユーイ・オークス中佐が地図を睨んでいた。


「……来たか。私たちは君たちの“異質な力”を頼りにしている。まずは───」

「その前に、この服を着替えさせてもらえませんか?悪目立ちするのはいやなので…」

「おっと、そうだったな。まぁ確かに、その奇妙な布切れでは敵に狙ってくださいと言っているようなものだな。わかった。兵站部に話を通しておく。

 ただし、軍服を着るということは、この軍の一員として扱うということだ。覚悟はあるか?」


 中佐の言葉は淡々としていて、鋭かった。だが俺たちの答えは決まっていた。俺の袖をにぎっていた依月が前に出て言った。


「はい、わかっています。私たち、生き残るためにやるしかないので」

「俺も同じです。中佐」

 俺は頭を下げる

「わかった、見た目だけでもそれらしくしてやらねば、味方に撃たれかねんからな」




 訓練場は、夕焼けに照らされて赤く染まっていた。魔法で抉れた地面、焦げた木杭、剣の切り傷が残る人形――この世界が戦争の真っ只中だって、いやでも思い知らされる空気。

 俺は貸し出された耳栓をつけて、ひたすらライフルを構えていた。転生時に得たスキル「現代技術」は、見たこともないはずの銃の扱いを“できる”ようにしてくれる。……けど、反動の慣れとか、姿勢とか、ちゃんと練習しなきゃ結局ブレるんだよね。


「……は、っ……っし。くっそ、またずれた……」


 俺の的には、ちょっとだけ外れた弾痕が残っていた。

 その隣では、依月が静かに木剣を構えていた。

 スキル「剣聖」。

 わずかな踏み込みで地面が沈む。空気が切り裂かれる音だけが残り、木杭の的が縦に真っ二つに割れて落ちる。


「……依月、おまえ、もうバグだろそれ……」

「千隼だって、よく銃なんか扱えるね」


 数日間、ひたすらに訓練を続けていると、体の中でまた自分の声ではない声で


《スキル「熟練銃手」「ガンスミス」を獲得しました。》


 調べてみると「熟練銃手」は銃を使った戦闘が極まるスキルで「ガンスミス」は銃を自由自在にカスタマイズできるスキルらしい。どちらも「現代技術」の派生スキルのようだ。

 このことを依月に話すと、


「千隼も新しいスキル獲得したんだ、実は私も同じ」


 依月も新しいスキル「斬月」を獲得したらしい。聞くと「斬月」は剣の斬撃を遠くまで飛ばせるスキルらしい。何それカッコいい!!


夕暮れで赤く染まる訓練場にいるのは俺たち2人だけ。俺は依月に聞いた。


「俺たち、帰れるのかな、元の世界に」

「帰れるかじゃなくて帰るんでしょ元の世界に。そのためにも生き残らなくちゃ」

「あぁ、そうだな」

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