俺とお前だけの分隊

ロバンペラ

第1話 異世界転生とスキル獲得

「千隼、早く帰ろ~」

「ちょっと待ってろ、今準備するから」


 という感じで幼馴染に急かされているのは、俺こと森浦もりうら 千隼ちはや、ラノベを読んだり、友達とふざけあったりするごく普通の男子高校生だ。幼馴染が綺麗すぎる以外は、普通の高校生である(2度目)


「ねぇ~早くしてよ~」


 と、俺を急かしているのは俺の幼馴染の天崎あまさき 依月いつき。依月は、誰しもが一目惚れしそうな美貌の持ち主だ。肩で切り揃えられた光を吸うような黒髪、体つきは細く引き締まっていて、制服も余計な皺を作らない。胸に関しては控えめで、運動のたびに「これくらいで十分」と言い切りそうな、無駄のないバランスだ。俺はなんでこいつの幼馴染をやっているのかが本当に不思議だ。


「千隼、明日の数学テスト、死ぬ気で挑みなよ?」


「死ぬ気で挑んでも、点は増えない気がする」


 そんな他愛もないやり取り。

 どこにでもある、続きが明日つながっていくような日常。


 ――そのはずだった。


 俺らが校門をくぐった瞬間、世界がねじれた。

 風景が一枚の皮のように裂け、轟音と熱気が流れ込む。

 気づけば足元は土。頭上には黒煙。見知らぬ誰かが叫び、砲撃が飛び交った。


「……え?」


 依月の声が霞む。

俺の体の奥で、自分のものではない声がした。


《スキル獲得──“現代技術”》


 続けて、依月の前に光の文字が浮かぶ。


《スキル獲得──“剣聖”》


 日常は、音もなく終わった。気づけば俺らは、命の値段がとんでもなく軽い世界の、ど真ん中に立っていた。


 爆音が鼓膜を打ち、砂埃が頬を刺した。俺は反射的にしゃがみ込み、頭上をかすめていった魔法の行方を見た。


「……戦場、ってやつ……?」


 言葉にしてみても、現実味は追いつかない。

 けれど倒れた兵士の血の匂いが、状況を押しつけてくる。


 依月は震えていなかった。

 息を呑みながらも、視線は正面を射抜いている。


「千隼、立って。ここ、長居したら終わる」


 その声がいつもより低い。

 ただの女子高生ではなく、戦う覚悟を持った者の響きだった。


 次の瞬間、依月の足元から光が走り、彼女の手に白銀のサーベルが生まれる。


「……これが、“剣聖”のスキル?」


 依月はサーベルを握りしめ、わずかに息を吐いた。初めて手にするはずなのに、扱い方を体が思い出しているような動き。


 俺も自分の手を見る。

 スマホも教科書もないのに、脳に知識が流れ込んでくる。


〈現代技術:ベネリM3を召喚……〉

 思考が形になり、姿を現していく。


「これは…ショットガン?」


 手にした物体は黒く重厚なショットガンだった。



「千隼!」


 依月の叫び。

 振り返ると、剣と盾を構えた敵兵がこちらへ迫ってきていた。


 心臓が跳ねる。

 逃げるべきか、立ち向かうべきか。

 判断は遅れた。


 代わりに動いたのは依月だった。

 地面を蹴り、細い影がしなって伸びる。


 剣が一閃した。


 空気が切り裂かれ、敵兵の盾ごと斬り伏せられる。あまりに速くて、俺は何が起こったのか理解が追いつかなかった


 しかし、槍を持った新たな兵士が現れ、依月を刺し殺そうとしてきた。依月は気づいていない。

 頭より体が先に動いた。俺は持っているショットガンを敵兵に向け、重い引き金を引いた。反動で腕が持っていかれそうになるが、体全体を使って何とか受け流せた。

 敵兵は俺の撃った散弾をまともに喰らい、地面に倒れた。


「ありがと…」


 依月は俺の手首を掴んだ。


「行くよ。ここ、生き残る道、探さなきゃ」

「あぁ…」


 その手は冷たくて、強かった。俺らは煙の向こうへ駆け出した。日常が遠ざかっていく。

 戻る方法もわからないまま、

ただ前へ。生きるために。


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