俺とお前だけの分隊
ロバンペラ
第1話 異世界転生とスキル獲得
「千隼、早く帰ろ~」
「ちょっと待ってろ、今準備するから」
という感じで幼馴染に急かされているのは、俺こと
「ねぇ~早くしてよ~」
と、俺を急かしているのは俺の幼馴染の
「千隼、明日の数学テスト、死ぬ気で挑みなよ?」
「死ぬ気で挑んでも、点は増えない気がする」
そんな他愛もないやり取り。
どこにでもある、続きが明日つながっていくような日常。
――そのはずだった。
俺らが校門をくぐった瞬間、世界がねじれた。
風景が一枚の皮のように裂け、轟音と熱気が流れ込む。
気づけば足元は土。頭上には黒煙。見知らぬ誰かが叫び、砲撃が飛び交った。
「……え?」
依月の声が霞む。
俺の体の奥で、自分のものではない声がした。
《スキル獲得──“現代技術”》
続けて、依月の前に光の文字が浮かぶ。
《スキル獲得──“剣聖”》
日常は、音もなく終わった。気づけば俺らは、命の値段がとんでもなく軽い世界の、ど真ん中に立っていた。
爆音が鼓膜を打ち、砂埃が頬を刺した。俺は反射的にしゃがみ込み、頭上をかすめていった魔法の行方を見た。
「……戦場、ってやつ……?」
言葉にしてみても、現実味は追いつかない。
けれど倒れた兵士の血の匂いが、状況を押しつけてくる。
依月は震えていなかった。
息を呑みながらも、視線は正面を射抜いている。
「千隼、立って。ここ、長居したら終わる」
その声がいつもより低い。
ただの女子高生ではなく、戦う覚悟を持った者の響きだった。
次の瞬間、依月の足元から光が走り、彼女の手に白銀のサーベルが生まれる。
「……これが、“剣聖”のスキル?」
依月はサーベルを握りしめ、わずかに息を吐いた。初めて手にするはずなのに、扱い方を体が思い出しているような動き。
俺も自分の手を見る。
スマホも教科書もないのに、脳に知識が流れ込んでくる。
〈現代技術:ベネリM3を召喚……〉
思考が形になり、姿を現していく。
「これは…ショットガン?」
手にした物体は黒く重厚なショットガンだった。
「千隼!」
依月の叫び。
振り返ると、剣と盾を構えた敵兵がこちらへ迫ってきていた。
心臓が跳ねる。
逃げるべきか、立ち向かうべきか。
判断は遅れた。
代わりに動いたのは依月だった。
地面を蹴り、細い影がしなって伸びる。
剣が一閃した。
空気が切り裂かれ、敵兵の盾ごと斬り伏せられる。あまりに速くて、俺は何が起こったのか理解が追いつかなかった
しかし、槍を持った新たな兵士が現れ、依月を刺し殺そうとしてきた。依月は気づいていない。
頭より体が先に動いた。俺は持っているショットガンを敵兵に向け、重い引き金を引いた。反動で腕が持っていかれそうになるが、体全体を使って何とか受け流せた。
敵兵は俺の撃った散弾をまともに喰らい、地面に倒れた。
「ありがと…」
依月は俺の手首を掴んだ。
「行くよ。ここ、生き残る道、探さなきゃ」
「あぁ…」
その手は冷たくて、強かった。俺らは煙の向こうへ駆け出した。日常が遠ざかっていく。
戻る方法もわからないまま、
ただ前へ。生きるために。
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