俺は奇跡など信じない!

にのまえいつき

俺は奇跡など信じない!

 俺は奇跡など信じない!

 天は俺に奇跡を起こしてくれたことなどなかった。

 その証拠に俺は生まれてこのかた彼女がいたためしがないからだ。

 もし、奇跡があるのならば、今頃俺は素敵な女の子と出会って、しかも女の子から好かれてお付き合いをしているはずだ。

 だが、いつだって俺はロンリーウルフ・・・

そういうことだ。


 今、俺の目の前にはおあつらえ向きの曲がり角がある。

 天よ!お前に奇跡が起こせるというのなら起こしてみろ!

 今から俺は曲がり角を右に曲がる。そしてその時ちょうどのタイミングで、食パンをくわえて急いで走ってくる美少女と俺をぶつからせて恋に落ちさせてみろ。そうすれば俺は奇跡を信じるだろう。


 ・・・

 曲がり角には美少女どころか人っ子一人いやしねえ・・・

 いつもそうだ。

 天は俺に微かな期待だけをさせるだけさせといて、いつも空振りさせる。

 どれだけ俺の気持ちを空振りさせれば気がすむのか。お前は名クローザーになれるよ・・・

 そして俺は奇跡というものを信じなくなったのだ。

 いや、俺にだけではない、彼女ができたことのないすべての男に対して天は奇跡を起こそうともしない。

 なぜ、奇跡を起こして彼女の一人くらいつくらせてやろうともしないのだ。

 ・・・Y山・・・

 このことを考える時、俺はアイツのことを思い出す・・・


 俺とアイツは高校の同級生だった。

 アイツは彼女を欲しがっていた。

 高校生のうちに彼女をつくると意気込んでいたんだ。

 そしてその為の行動を起こしていた。同級生の女の子に片っ端から告白し、お付き合いを求めた。が、天はアイツにソッポを向いた。

 告白はすべて玉砕し、精神的に追い詰められたアイツは、あろうことか放課後教室に忍び込み、女子の体操服の匂いを嗅ぐという凶行に及んでしまったのだ。

 アイツは犯行現場を先生に見つかってしまい、翌日から姿を消した。あれから学校内でアイツのことは口にだしてはいけない、アンタッチャブルな存在になってしまったんだ。

 今、アイツが何をしているか、生きてるかさえ俺は知らない。

 もし、天がアイツに少しでも微笑んでいれば・・・

 奇跡を起こして彼女ができていれば・・・

 アイツは歪まなかったかもしれない・・・


 桜の花びら・・・

 考え事をしながら駅に向かって歩いていくうちに、いつの間にか川沿いの桜並木までやってきたようだ。

 ちょうど今が桜の満開から散り始めの時期に差し掛かり、風に吹かれて桜吹雪が舞っている。

立ち止まって空を見上げる。

 青い空に薄桃色の無数の花びらが舞い、まるでロンリーウルフたる俺の凍りついた魂こころをなぐさめてくれているかのようだ。


 天は奇跡を起こしちゃくれないが、なぐさめくらいなら時々起こしてくれる。

 例えばこのきれいな桜吹雪のように。

 だから、俺は奇跡など信じないし、天に悪態をつくけれど、生きることを放棄しようとまでは思わないんだ。






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