第7話 [フラグ]

 ブルーノ会長に連れ立って、俺は都内の料亭に通される。正直、高級なフレンチじゃなくて助かったと胸を撫で下ろす。


「桂木くん、苦手なものはあるかな?」


「梅とレバーがダメですね、あ、飲み物は焼酎のラインナップを見せてください」


「はっはっwワシの前でその豪胆さは嫌いじゃない、誰も彼もワシに気を遣って顔色を伺いよる」


「普通はそうでしょうね、俺には何も無いんで」


「その話、個室で聞かせてもらおうか。ワシも桂木くんにだけ話しておきたい事もあるからな」


 8畳間の個室に通されると膳を挟んで会長と向かい合う。会社で見せた会長の仮面かおや、一流セレブの当主とは異なり、1人の人生の先輩としての穏やかな老紳士のたたずまいがそこにはあった。


「とりあえず、乾杯」


 会長は清酒を熱燗、俺は焼酎を湯割りで頼んだ


「ほう、香りの良い焼酎だの」


「高知の栗焼酎、ダバダ火振ひぶりです最近はこういった変わり種が面白くて、こういった香りを楽しむ酒は湯割りに限ります」


「なかなか、通な酒飲みだな」


「まだまだ若造ですよ」


 旬の魚と野菜が並び、ある程度酒が進んだ頃。


「会長、何でだったんですか?」


「君は昔、大事な女性ひとを亡くしているそうじゃないか」


「……もう20年近くになりますがね、恥ずかしい話、まだ引きずってます。女々しいですよね」


 ブルーノ会長は俺の身の上話をしみじみと聞いてくれた、初めてだった、瑞穂の話を疑わず聞いてくれたのは。


「桂木くん、キミは輪廻転生リーインカーネイションを信じるかい?」


「理解は出来ますが、実際経験が無いので信じれるかは分かりませんね」


「うちの孫娘…ミシェルと言うのだが、その孫娘が一生懸命バイトをして、ワシを通じて興信所探偵を雇ったんだ。氏名、出身地、生年月日すべてピンポイントでね」


「……そして、現存すると確認し、ロッソグループと関わりがあると分かって俺を破格の条件で引き抜いた」


 俺はグラスに残った酒を煽り


「もし、俺がどうしようもないクズだったらどうしたんです?調べたんなら分かってるでしょう?俺はバツイチですよ、お嬢様の相手には相応しく無い」


「分かっておる。だがな、孫娘ミシェルは…いや瑞穂さんは一途にお前に逢いたい、その一念を貫いて今も日本に来たがっている」


 瑞穂が生まれ変わっていた!その事実に俺は頭が混乱していた。酔いを醒ますようにロック用の氷が溶けた冷や水を飲み、縁側に出て残りの水を頭から被った。


「桂木くん!?」


「会長、まだ酔ってますが、もう一度聞かせてください!俺は、瑞穂に逢えるンですね?」


「ああ、間違いない。まだ孫娘は学生だが、いずれは日本に来たいと言っていた」


 俺はブルーノ会長の左横で土下座をし。


「俺を、出向から社員に取り立ててください!瑞穂に逢えるなら雑用でもなんでもします!」


 会長は俺の右肩にそっと手を置き。


「桂木くん、1つ…いや、2つ頼まれてくれんか?」


「俺に出来るならいくらでも」


「1つは無論、孫娘の支えになって欲しい。それともう1つはワシの飲み友になってくれんか?1人飲みじゃ寂しい時があるんじゃ、桂木くんにも分かるじゃろ?」


「分かります、たまに人恋しくなりますからね。その2つ、確かに」

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