第16話 おっさん、地下二階に到達する

 地下二階までやって来た。

 再び彼女たちに『精霊の加護』を使用し、能力の底上げをしてやる。

 低いレベル帯のモンスターを倒すより、強化してレベルの高いモンスターを倒した方が魔力量が上昇しやすい。

 地下一階で早くも敵なしとなった彼女たちには地下二階で戦った方が効率はいいだろう。


「地下二階に出現するモンスターはどんなのかな? さあ、出ておいで!」


「翠。気合が入ってるのはいいがこれは何だ?」


「何って何が?」


「何のことですか先生」


「君もだ無花果」


 翠が張り切ってモンスターを探す。

 だが彼女は俺の左腕に絡みついている。

 それは無花果も同じで、俺の右腕に腕を絡ませていた。


 まさに両手の花。

 美女が両脇におり、いい香りがする。

 そこまではいいが、この状況は何だ?

 俺は疑問符を浮かべながら二人を交互に見る。


「師匠、凛花ちゃんを家に泊めたんだろ。そんなのせこいよ」


「先日珍しく外泊したと思ってたら先生の家に泊まっていたなんて……クソ羨ましいことしやがってです」


「凛花が家に泊めたのは事実だが、しかしこうする理由が分からない。もう強化スキルをかけたんだし離れてくれ」


 俺の言葉に二人はようやく離れる。

 そして翠と無花果は凛花を睨み、凛花は苦笑いを浮かべた。


「べ、別にいいじゃん。ただ泊っただけなんだしさ」


「師匠と一緒になるのがズルいって言ってるんだよ!」


「一緒に寝てないぞ。その辺の勘違いは修正しておいてくれ」


「その話が本当かどうか、今度は私が泊まって確かめますので、今度対戦お願いします」


「何の対戦だ? 俺は無花果と戦わないぞ」


 二人はまだ言いたいことがあるようだが……戦いを前にしてようやく気を取り直す。

 

 丁度そのタイミングでレッドウルフと言うモンスターが現れる。

 見た目は大型の犬。

 だが全身の毛は炎のように赤く、実際に火を扱うモンスターだ。


「あれがレッドウルフですね。いつも通り私が接近します。隙が出来たら攻撃を」


「了解。無理はしないでよね」


 凛花に頷いて無花果は、ゆっくりとレッドウルフに接近していく。

 その距離はおよそ10メートル。

 すでにレッドウルフの攻撃範囲。

 無花果は盾を構えてレッドウルフが攻撃するのを待っていたが、彼女にとって予想外のことが起きた。


 炎を吐き出すレッドウルフ。

 接近戦しか無いと考えていた無花果からすれば不意打ちに等しい。


「きゃっ!?」


 その激しさに尻餅をつき、逆に隙を生み出してしまう。


「無花果ちゃん危ない!」


 無花果のピンチに翠が飛び出す。

 凛花は魔術を発動させるため、杖に魔力を集中し始める。


「えい――って避けられた!」

 

 翠の攻撃をかわしレッドウルフは、全身のバネを利用したタックルを仕掛ける。

 吹き飛ぶ翠。

 凛花は焦って火の魔術で攻撃する。


「これでどう、『ファイヤーボール』」


 炎を食らうレッドウルフ。

 だがそれは避ける必要はないと判断したのだろう。

 火属性のレッドウルフに炎が通用するはずもなく、敵は平然としている。

 むしろエネルギーをもらったかのように元気に遠吠えをし、三人を威嚇した。


「こんなの勝てるの……?」


「少し前のことを思い出せ。パニックを起こして力を発揮できないだけだ。もっと冷静になって戦えば勝てるはずだ」


 俺の言葉に凛花が深呼吸する。

 そして自分の顔を両手で叩き、落ち着いた瞳で無花果たちに言う。


「私の魔術は通用しない。無花果、あの攻撃なら防げるはず」

「た、確かに……あれぐらいなら問題ないはずですね」


 無花果も冷静さを取り戻し、今度は炎があることを警戒するようにレッドウルフを見据える。


「どうしたらいいかな、無花果ちゃん?」


「まずは私が抑える。翠はそれからお願いします」


「うん!」


 翠も冷や汗をかいてはいるものの、まだ冷静さは保っているようだ。

 無花果を信用し、攻撃の瞬間を待っている。


「桂馬さん、こういう時私はどうすればいいの?」


 俺の隣に立つ凛花がそう聞いてきたので、俺は無花果たちから視線を外さないままで答える。


「凛花のスキルは炎のみ。だが今できることは何も無いな」


 属性は火・水・風・土の基本の四属性と、光・闇の計六つがあり、どの系統を伸ばすかは悩むところだ。


 少人数で戦う凛花だからこそ、その辺りはこれから真剣に考えてもらわないといけない。

 攻撃特化だけで許される人数じゃない。

 補助的なこともできるようになるのがベストだろう。


 ファイヤ系統しか習得していない凛花はそれを痛く理解したのか、顔を歪ませて翠たちの戦いを見届けている。


「最悪……何もできないなんて」


「そんな風に考えなくていい。誰だって何もできないことがある。相性だってあるしな。次から炎だけじゃなく、他にできることも増やすこと。そうすることによって臨機応変に立ち回りができるようになるはずだ」


「分かった。絶対に他の系統も伸ばす」


 歯を噛みしめ、二人の戦いを視認している凛花。

 手助けできないのが悔しいのだろうが、その悔しさが彼女を成長させるはず。

 失敗は成功の母なのだ。

 問題は失敗から何を学ぶか、それが重要だと俺は思う。


 凛花は手札を増やすことの重要性を理解したので、それは大きな前進だ。

 炎一辺倒で戦えると考えていた節があったので、彼女にとって良い機会になっただろう。


「さあ、二人を応援してやろう」


「頑張れ、二人とも!」


 自分が何も出来ない分、凛花は全力で応援を開始する。


「こっちに来なさい、ファッキン犬!」


「ギャオオン‼」


 無花果の『挑発』が発動する。

 レッドウルフは無花果に突進し、しかし彼女は攻撃を盾で受け止めた。


「チャンス! 行くよ『シャドウリッパー』!」


 ファントム系統のスキル『シャドウリッパー』。

 翠の動きに合わせて、彼女と同じ形をする影が追随。

 レッドウルフに対して二刀の剣と影の二刀の攻撃。

 合計四つの斬撃がモンスターにヒットし、相手は派手に血を吹き出す。


「まだ倒れない、もう一回だ!」


 レッドウルフの動きが鈍っており、翠は追撃を仕掛ける。

 『シャドウリッパー』を発動し、トドメを刺すつもりだ。


 攻撃は決まり、レッドウルフの討伐に成功。

 相手は地面に倒れ、ピクピクと痙攣をしていた。


「や、やった……倒せた」


「最初はどうなるかと思ったけど、意外と何とかなりました」」


 翠と無花果は同時に腰を抜かす。

 冷静でいることを心掛けていたようだが、相当緊張して戦っていたようだ。

 

 だがこの緊張感こそが成長のカギの一つだと俺は考える。

 温い環境でいるのもいいが、死線を潜り抜けてこそより一層大きくなれるはず。

 手を貸すのは簡単だが、自分の力で乗り越えることこそが重要だろう。


「ごめん、私何もできなかった」


「凛花ちゃん……いいよ。凛花ちゃんはいつも料理してくれてるし、普段はボクの方が何もできないだから」


「そうですよ。この先私たちにも手出しできない状況が来るでしょうし、お互い様じゃないですか」


「ああ。三人はチームだ。一人一人出来ないことはあるだろうが、それをフォローしあって成長していく。そしたらあっという間に冒険者として活躍できるはずだ」


 三人が俺に頷く。

 まだまだ成長の過程にある彼女たち。

 こんなところで心を折っている場合じゃない。

 自分たちの願いのために努力し、前へ進む姿は感動すら覚えてしまう。


 俺は密かに心を震わせ、彼女たちに力を貸してやりたい気持ちが大きくなっていた。


「体力も魔力もさほど消費していない。戦いはまだこれからだぞ」


「よし、頑張るぞ! 今のモンスターが出たらボクと無花果ちゃんで倒すから、凛花ちゃんは倒せるモンスターお願い」


「うん、分かった。炎の通用するモンスターは私が駆逐するから。絶対に足手まといになるようなことはしない」


 凛花の感情を露わにするよう、瞳には炎が宿っている風に見えた。

 諦めないことが大事だが……それを教える必要はなさそうだな。


 三人は深く深呼吸し冷静に、しかし熱い気持ちで地下二階の戦いに身を投じるのであった。

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