第17話 焦燥と安堵

珍しく残業している時間中に電話がかかってきた。奈緒からだ。席を外して廊下に出てから電話を取る。


「もしもし、何かあった?」


「ゴメンなさい、私が悪いの。どうしよう」


半分泣き声になっている。


「ん、どうした、何があったの?」


こちらの緊張感も一気に高まる。


「耕太が帰ってこないの。もうとっくに帰って来ているはずなのに。最近、今後のことであれこれ考えていることが多くて、昨日、彼が話しかけて来た時に、『ママは忙しいからあっち行ってて』って言っちゃったの。それできっと…」


「だって帰りは翔太と一緒だよね」


「それが、『今日はお休みする』って言って、先に帰ったって。心当たりがあるところは大体探したんだけど、どこにもいないの。わたしどうしたら良いの?」


「んー、まあ、いろいろある年頃だし、どこかで時間潰しているだけかもよ」


「でもそれで誘拐とかされちゃったら、もう二度と耕太に会えないかもしれない…」


そう言うと何を行っても泣くばかりで話ができなくなってしまった。急いで仕事を切り上げて家に帰る。


沙耶と翔太は自分の部屋にいるようで、リビングにいるのは大人3人。泣きじゃくる奈緒をなだめながら、事実の確認をする。朝は特に変わった様子はなかった。学校は普通に授業が終わるまでいて、それからまっすぐ家に帰ったと。近所の行きそうなところはあらかた探したし、親しい友達の家にも電話をしている。


「け、警察に捜索願を出した方がよいですかね」


新一さんがおそるおそる提案をする。


大ごとにしたくないが、もうこれ以上打つ手はないし、これ以上遅くなったら心無い人に連れていかれる可能性も増えるだろう。


と、その時、沙耶が現れる。


「沙耶、あなた自分の部屋に居なさいって…」


俺は菜穂子のその声を遮って、沙耶に聞く。


「ん、どうした。なにか話したいことがあるのか?」


「あ、あの」


「ん?」


「あの、私知っているかもしれない」


「なにを?」


「耕太の居場所」


「えっ」


「絶対ってわけじゃないけど、もしかしたら」


何度聞いても行き先を言わないので仕方なく彼女に付いて行く。新宿から小田急線に乗り、成城学園を超えたあたりで奈緒が気がつく。


「ね、もしかして、耕太の前の家の方に向かっているの?」


黙って頷く。


「でもなんで沙耶が知っているんだよ」


聞いても沙耶は答えない。


新百合ヶ丘で降りてバスに乗り、15分くらいのところの停留所で降りる。そこから沙耶と翔太いきなり走り出し、他の大人も慌ててそれを追いかける。どんどん先に行かれ見失いそうになったが、先の方で立ち止まっている二人を見つけてそこへ急ぐ。


沙耶と翔太の前に耕太がいる。ある家の玄関のところに座っている。良かった、無事なようだ。


そして、その両隣にこちらを向いている見知らぬ老夫婦。


「なんだ、今日は沙耶ちゃん、翔太・耕太だけじゃなく、大人も一緒か、ハハハハ」


よく通る声で男性の方が笑う。


「おとうさん、おかあさん…」


奈緒が呟く。


「え、ってことは?」


「私の両親です」


新一さんが答える。


「まあ、ここじゃ話もできないから皆、うちに来なさい。耕太ももういいだろ」


おじいちゃんの言葉にこっくり頷くと、耕太はおばあちゃんに手を引かれ、夜道を皆と一緒に歩き出した。

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