第六話『アフロブラザー』

「おっ?よーやく帰って来たわね。どう?掘り出し物あった?」



 怪物退治モンスターハンティング用の買い出しを終えたケビンとアルミラ。それを斡旋所あっせんじょのミカサが出迎える。アルミラは笑顔で、



「へっへー。まあまあってとこね」

「おい……おいッ!!」



 ……何やらケビンが騒いでいる。よく見ると、荷物は全てケビンが持たされていた。それも大量に。



「何で俺が荷物持ちやってんだよ!!少しは持てよ、お前も!!」

「何?レディはねぎわらなくちゃ。ジェントルメンでしょうに」



 異議を申し立てるケビンだが、アルミラは悪びれない。力仕事は男性担当。この考えは古風と捉えるか、それとも今や世間は男女平等と捉えるか。難しい所だ。



 何かと肝がわっていて、饒舌じょうぜつなアルミラ。ケビンは疑いの眼差しで一つの仮定を持ち出す。



「かー……!!都合よく言い換えやがって……お前さ」

「何?」

「まさかとは思うが、たらし込み系のアレとかやってないよな?」



 失礼千万なケビンの回答。だが昼間のバザールの値切り方を見るとそれも致し方ないか?だが、それを制したのはアルミラでも、ミカサでもなかった。その人物は、



「少年よ、流石さすがに言葉が過ぎるぞ。謝罪せい」



 ケビンの頭にさやに納めた刀がごんっ、と軽く振り下ろされる。



 長身で筋肉質。肌は色黒、サングラスに違和感のある着物の着流し。腰には刀を差し、何よりも特徴的なのは、



「何だアン……タ……。ええっ?」

「うわっ!!」



 二人の目を引いたのは髪型。二人とも開いた口が塞がらない。



「アフロ……」

「アフロだね……」



 そう。まごうこと無きアフロヘア。……初めて見た二人。だがここまでイレギュラーになると、逆にミスマッチ。



『アフロ侍だ!!』

「ん?そうだな。拙者はアフロ侍だ」



 ブラザーソウルよろしく。和の心を履き違えた侍。だが、強さは十二分に伝わってくる。彼がミカサが招集した、



「ああ、紹介が遅れたわね。彼があなた達の監督役、侍のショウジローよ。ランクはB+ってとこね」



 ランクもB+ともなると騎士団の筆頭を任されるほどの腕前を意味する。よく今回の授業クエストを引き受けてくれたものだ。



「……すみませんでした、俺はケビンって言います」

「私はアルミラ。それ……やっぱり本物ですか?」



 二人の興味はもうアフロに首ったけ。まごうこと無き地毛。



「うむ。ん?気になるか?触っても構わんぞ?」

『……いや、結構です。それは』



 形を崩してはならないという二人。自慢のアフロがそこまで食らいつかれなくて、少ししゅんとするショウジロー。



 ともかく自己紹介は終わり、ミカサはこのハンバラ学生街周辺の地図を広げ、今回の授業クエストの説明を始める。



「場所はメネスのほこら近辺。この学生街から北西の位置にあるわ。地図だと……ここね」



 ミカサは地図に赤いマーカーでシュッと丸を付ける。



「本来なら結界があって、怪物モンスターは近寄れないんだけど最近、怪物モンスターの目撃情報が絶えないわ」



 そこにはミカサも疑問があった。古来より運営されてる当『迷宮学園』その長い歴史の中で様々ないざこざがあったが、システム不備というのはあまり聞いたことがない。



 かと言って、手の空いている生徒、教師、他は残念ながら見当たらない。まあ、三人の実力の程を知るミカサは、



「て、言っても小型の怪物モンスターしか目撃されてないから、あなた達にはちょうどいいでしょ。アフロ君もいるしね」



 もはやアフロ君で通るショウジロー。連日の授業クエストで疲れは溜まっているが、剣も新調したケビンは、



「よーし!!じゃあ、明日出発だ!!やるぞぉ!!」



 気合が入っている。剣士は気負いするくらいなら、これくらいで丁度良い。だが、魔術師のアルミラは、



「熱血だねぇ……ま、足引っ張らないでよ?単細胞さん」

「お前と言う奴は、皮肉でこき下ろさないと満足せんのか?」



 皮肉を言えるほどクールを徹底する。最大の火力を持つ魔術師というものは最後の要。分析能力が求められる。……アルミラのこれは行き過ぎている気もするが。



「こらこら、いい加減にしないか。チームワークの乱れは死に直結するぞ?進級したければ、考えを改めよ」



 アフロ侍ショウジローは二人をなだめる。その姿は確かに余裕を持った先輩のそれだった。そして日が落ちると、ミカサが厨房の奥から、何やら異形のものを持ってきた。



「さ、とにかく夕食にしましょ。帰りが遅いと踏んでいたから、あらかじめ私が作っておいたわ。たくさんあるから、おかわりジャンジャンしてちょうだいな」



『…………え?……ミカサさんの……手料理?』

「そうよ。今日のは自信作だから。さ、食べて食べて」

「……い……いただきます」



 お気づきだろうか。ミカサの料理の腕は壊滅的。かと言って、彼女に逆らい食を拒むのも地獄行き。もはや逃れる術はない。



 その夜は異様なまでに静かに過ぎていった。それはもだえ苦しむ声を出すことすらも許されなかったからだ。



 怪物退治モンスターハンティングの前に命を落としかねない。そんな夜だった。

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