第1話

「あ、あー。録れてるか?」


 黒髪の男がカメラに向かって話す。


「今日から「北のダンジョン」に入る。そこでせっかくだ。日記を録ることにした」


「まーた余計なもの買ったの? ってこれ最新式の防護魔術ついてるやつじゃない! いくらしたのよ!」


 カメラに茶髪の女が写る。

 女は男を追及した。


「に、28万……」


「はぁ!? 録音機能までついてるし!」


「ダンジョンに入るんだ! ちゃんとしてる方がいいだろう!」


 記録機には強力な防護魔術がかかっていた。

 いわゆる高級品だった。


「はぁ……20万円もあったら剣でも防具でも新調できたでしょうに」


「あーっと……俺はアラタ。タンクだ。で、うなだれてるのがミユキ、剣士兼サポーターだ」


「うなだれてるのは誰のせい?」


「きょ、今日から日記をつけていく。できるだけ毎日な。もし俺たちが撤退することになっても、これが後続の助けになるかもしれない。あくまでその為だ。調子に乗って買ったわけじゃない」


 ミユキのジト目にアラタは耐えつつ、カメラを持って移動した。

 次に写ったのは青い髪の少女だった。


「およ?」


「こいつはプリン。プリンが好きらしい」


「こんにちはなのです」


「夜だけどな」


 プリンは上機嫌にカメラに手を振った。

 その片手には、身の丈程ある杖が握られていた。


「こう見えても精霊魔術が……なんだっけ?」


「精霊魔術が領域級まで使えるのです」


「……それって北海道で言うとどれくらいだ?」


「半分くらいに雨を降らせられるくらいなのです」


「全域じゃないんだな」


「北海道がでっかすぎるのです」


 プリンの解説を終える。

 すると金髪の少年が一人、こっそりアラタとプリンの後ろに迫った。


「わっ!!」


「うわっ」


 カメラが音を立てて落ちた。


「いっしっし。どっきり成功~!」


「おい! これ高いんだぞ!」


「防護魔術あるから大丈夫です~ばいば~い」


「おい! リーベル! ……はぁ、全く」


 少ししてカメラはアラタに拾い上げられた。


「えーと、さっきのはリーベル。いたずら好きだが、まぁ優秀だ。斥候ってやつだ」


「いぇ~い」


「おい!」


 写り込んだリーベルが両手でピースを見せた。

 アラタに叱られそうになった瞬間にリーベルは素早い動きで消えていった。


「はぁ……ああ、ダンジョンに入るのは明日だ。今日はそろそろ終えることにする。日間記録終了、シャットダウン……はぁ、ミユキの機嫌取らないとな」

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