第2章 名古屋港臭激




「怪獣が喋ったぁぁぁぁ!」

 シャークが言葉を発した瞬間、プリティーヒポポタマスこと河島マコは驚いて叫び声を上げる。

「な、何だよ。別に珍しいことじゃないだろ?」

「いやいや普通喋んないから!」

「そもそも嬢ちゃんたちはなんだ?その格好は?何で浮かんでる?怪獣タイサクキコーの関係者か?」

シャークは部隊の方を見るが、隊員たちは知らないと首を振るばかり。

「覚悟しなさい怪獣!」

ヒポポタマスはカバの顔のオーラを纏った拳を掲げる。

「待て!その怪獣は我々の味方だ。あと、我々の基地まで来てくれ。聞きたいことが山ほどある。」

こうしてマコたちは怪獣対策機構日本支部の東海基地に連れて行かれ、隊員やシャークたちと色々と話をした。

自分たちがいた世界のこと、そこでは怪獣は侵略者ワニワニ団の手駒でしかなく、言葉を話す個体もいなかったこと、ここでは自分たちの活躍がアニメとして放送されていることなどを語る。シャークはこう言った。

「なるほど、嬢ちゃんたちは『世界線』を飛び越えたってわけか。」

「パラレルワールド‥ということでしょうか?」

麗が尋ねる。

「ま、そんなとこだな。この世界じゃあ、嬢ちゃんたちはアニメのキャラってわけ。逆にオレ様が物語の中のキャラな世界もあるかもしれねぇな。」

シャークはさらに守護怪獣の役割、怪獣境のことを語った。

「怪獣境って全部の世界と繋がってるんでしょ?じゃあどうして私たちの世界には怪獣がいないの?」

れもんの疑問にシャークはこう答えた。

「世界線ってのは毎日のように枝みたいに広がってるんだ。怪獣境もそれに合わせてどんどん大きくなっているんだが、何しろ1秒ごとに広がってるからな。まだ怪獣が行けてない世界線だってごまんとあるさ。」

「世界ってそんな風になってたのか‥」

「スケールがおっきすぎて付いていけないかも‥」

少女たちは世界線の計り知れなさを知る。

「それにしても嬢ちゃんたちの世界に怪獣を持ち込んだワニワニ団ってのは‥まさか!」

シャークの脳裏にある存在が思い浮かぶ。



一方、地球(アース610649)の上空、星空に擬態して浮かぶワニ型巨大戦艦ギュスターヴ号内では‥

「冷凍竜巻野郎は死んだか?」

「はいデイノ様。あのサメに倒されました。」

「そいつは良かった!これで心置きなくイヤガラセが再開できる!」

並行地球侵略集団クロコディリアンズーーマコたちが一年間戦ったワニワニ団の正体ーーはテュポーンが東京を占拠した時、騒ぎに乗じて大量の怪獣を放って混乱を起こそうと考えていたが、テュポーンの出す凄まじいエネルギーを放つテュポーンに怖気付き、テュポーンが倒れるまで待つことにしていた。総督デイノ•ボーンは科学者テレスターと共に下界の様子を見ていた。デイノは早速日本を襲う準備を始める。そしてシャークはマコたちがいる愛知県名古屋市の名古屋港に目をつけた。

「よぅし。あの港に臭いをたっぶり染み込ませてやる。」

デイノは不的な笑みを浮かべる。




 この世界にマコたちが帰る家はなく、登校時だったため所持金も少ない。いつ帰れるかわからない少女たちをずっと泊めておくホテルなどもない。そのため彼女たちは見習い調査員にしてシャークと最初に交流した人間であるブレットとマークの滞在している音楽スタジオで生活することになった。ここは日本最大の怪獣対策機構基地である名古屋基地から目と鼻の先にあり、ブレットとマークは平時、日本にいる時はここでライブをしている。忘れている方も多いだろうが、彼らはシャークと出会う前はバンド活動をしながら世界中を旅していたのだ。ブレットとマークはマコたちのことを快諾し、怪獣対策機構は彼女たちが生活できるスペースを用意した。食事はマークが作った。マークは彼女たち、取り分けマコとれもんの見ていて気持ちよくなるほどの食べっぷりを見て嬉しそうにしていた。ブレットはバンドの楽器に興味を持った麗にギターを持たせてあげた。音楽の才がある彼女は初めてにも関わらず上手に演奏し、ブレットを感心させた。マコと豹は時々基地のジムで筋トレをし、スタジオの周囲をランニングしていた。れもんは寝そべったり、座ったりしながらぼんやりしていたり、青い魚に手足が生えたような珍妙なキャラクターを絵に描いたりしていた。ブレットがそれは何だと尋ねると、れもんはシャークの似顔絵だと言った。その絵はスタジオに貼られることになった。夜になるとブレットたちが歌ったり、みんなでC級映画を観たりした。マコたちがいるスタジオはいつもに増して賑やかで、和気藹々としていた。

夜、並んだ布団の中で話す少女たち。

「なんか、お泊まり会みたいで楽しいね!」

マコが楽しそうに言う。

「呑気なことばかり言ってられないぞ。私たち、帰れないんだから。」

豹が諌める。

「お父さんにお母さん‥心配してるかなぁ‥」

れもんが寂しそうに言う。

「こちらとあちらでは時間の流れ方は違ったりするのでしょうか?」

「帰ったら数百年経ってたりして‥」

「怖いこと言わないでよ〜!」

少女たちは不安を抱えながらも眠りについた。


翌朝、TVのニュースが突然速報を入れた。

「速報です。愛知県名古屋市の名古屋港付近に、大小複数のザウオが出現しました。お近くにお住まいの方は速やかな避難を‥」

「この近くじゃん!」

マコが立ち上がる。

「ザウオだって!」

ブレットが慌てたように言う。

「しかも群れか‥」

「どんな怪獣なんだ?」

豹が尋ねる。

「アイツはヤバい。」

「とにかくクサいんだよ。」

ザウオはヨロイニオイザケという全身から悪臭を放つことで生存率を上げた深海魚が怪獣化した存在で、原体を遥かに超えるとんでもない悪臭を全身から放つ。

「ヤツと対峙するなら鼻に洗濯バサミをつける必要がある。」

「それはちょっと‥」

「嫌です‥」

幸いなことに怪獣対策機構のミスティが特殊ガスマスクを支給してくれた。ミスティはわずか15歳の少女を怪獣の眼前に送り出すことに躊躇っていたが、マコは

「心配しないでください!私たち、怪獣退治の専門家なので!」

と自信たっぷりに言った。彼女たちには向こうの世界でこれまでに50体以上を駆除した実績がある。ミスティは全力で援護、保護することを約束して、彼女たちを送り出した。



マコたちは変身して、ガスマスクを装着し、名古屋港に到着した。キラキラした雰囲気の少女戦士が無骨なガスマスクを装着しているのは中々ミスマッチだ。港は黄土色の臭気に包まれている。ガスマスクをつけていてもうっすらと生臭い匂いが漂ってくる。そしてギザついた背鰭を持つ魚に足が生えたような中型犬ほどの生物が飛び回っている。小型のザウオが徘徊しているのだ。

ギョパァァァァァァッ!

ザウオの一体がヒポポタマスに飛びかかる。ヒポポタマスは腕からカバの顔を模したエネルギーを出す。

「ワイルドヒポポタマスブレイク!」

カバの顎が閉じ、ザウオの体が両断される。ザウオの大きさはウサギほどのものから大型犬ほどのものまで様々で特殊部隊員も苦戦していた。アウレリアは背中から翼型のオーラを出して臭気を遠ざけ、バレリーナのような華麗な動きで靴から飛び出した蹴爪でザウオたちを蹴散らす。しかし、後ろから現れたグレートデーンほどもあるザウオに押し倒されてしまう。その衝撃でアウレリアがつけていたガスマスクが外れてしまう。ザウオはこれを好機とばかりに口を開け、アウレリアの顔に悪臭ガスを吐く。シャークをも悶絶させた凄まじい生臭さは大型犬サイズでも変わらない強烈さだった。

「くぅっ‥」

アウレリアは鼻と口を両手で押さえる。それでも匂いが入ってくる。アウレリアは目眩と吐き気に見舞われ、意識が飛びそうになる。

「アウレリアから離れろ!」

その時、後ろから黄色い蛇状の紐が飛んできて、ザウオの首を締め上げる。ザウオの体がのけぞり、その隙にアウレリアは立ち上がる。アナコンダが駆けつけ、アウレリアが致死量のガスを浴びる前に間一髪でザウオを退けてくれた。

「大丈夫?」

「ありがとう‥アナコンダ‥」

アウレリアはガスマスクを付け直し、アナコンダに礼を言う。無数のザウオが二人を取り囲む。アナコンダは肩からいくつもの蛇型エネルギーを伸ばし、ザウオを弾き飛ばし、アウレリアも翼や蹴爪で応戦する。

ギョパァァァァァァッ!

すると、先程アウレリアを襲ったザウオがアナコンダに襲い掛かろうとする。アナコンダは腕から蛇型エネルギーを放ち、ザウオの胴体を噛ませた。そしてそのまま勢いよく振り回す。

「ワイルドアナコンダスウィング!」 

ザウオは激しく振り回され、地面に叩きつけられる。アナコンダの後ろから別のザウオが現れ、アナコンダのスカートに噛みついて海に引き摺り込もうとする。

「ちょっと!離してよ!」

アナコンダは不意を突かれてそのまま引きずられ、海に落ちる。ザウオが水没したアナコンダに食らいつこうとする。しかしアナコンダは水中でも弱る様子を見せない。

「残念でしたー。私が水の中で戦えないと思った?」

オオアナコンダは基本的に水中で生活する半水棲のヘビであり、その力を持つ彼女も水中戦は大得意である。アナコンダのスカートが伸びて足先までを包み、彼女の下半身はヘビの尾のようになった。アナコンダはスカートでザウオを締め上げ、全身の骨を砕いて仕留める。

「やるじゃんアナコンダ!」

ヒポポタマスがザウオを手に現れた顎で両断しながら言う。彼女も水中に引き摺り込まれたが、カバの力を持つ彼女にとってはなんてことのないことだった。彼女はもはやガスマスクをつけてはいなかった。カバと同じように鼻の穴を閉じられるらしい。しかも本物のカバより長く潜れる。

「流石に丸呑みにはしないけどね。したくないけど。」

アナコンダはそう言う。ザウオたちがまだ群がってくる。

「行くよ!アナコンダ!」

「うん!」

ザウオたちは所詮人間の子供と舐めてかかる。が、アナコンダとヒポポタマスの背後に大口を開けて威嚇するカバとオオアナコンダのオーラが見えた。その圧倒的な気迫にたじろいでしまったザウオたちは次から次へと屠られていく。

ジャガーも陸上で大量のザウオを相手にしていた。彼女の戦闘スタイルは極めてシンプルで、強力な打撃が放てるラケットでザウオの頭蓋骨を粉砕するだけだ。彼女はその動体視力で的確にザウオを仕留めていく。ザウオの数がだいぶ減ってきたその時、海が盛り上がり、50m級のザウオが姿を現した。30m級と怪獣としては小さめだったこの間のクワガイダーを悠に超える迫力だ。

ギョパァァァァァァァァッ!

「わー!デカいの出た!」

アナコンダが驚く。

ヒポポタマスとアナコンダはあらかた地上のザウオを片付けたアウレリア、ジャガーと合流し、ザウオの前に立つ。さらに‥

「オレ様の出番だな!」

シャークもやってくる。

この港には大きな水族館がある。巨大な怪獣が上陸すれば多くの生き物の命が失われることになる。この大きさのザウオなら市街地を汚染し、居住不可能にしてしまう可能性も高い。シャークとプリティーワイルズは上陸を阻止することを最優先に考えることにした。4人とシャークは一斉にザウオに攻撃を開始する。ヒポポタマスは陸に向かって進撃していくザウオにタックルで突撃する。

「ワイルドヒポポタマスタックル!」

アウレリアは上空から急降下することで攻撃を行う。

「ワイルドアウレリアダイブ!」

アナコンダが大きな蛇型エネルギーを使ってザウオを拘束する。そこにジャガーがラケットて頭部を打つ。

(すげぇ嬢ちゃんたちだ‥)

シャークはプリティーワイルズの戦いを見るのは初めてだったので、その15歳の少女とは思えぬ戦闘力に驚愕する。プリティーワイルズの連続攻撃に疲弊したザウオは大きく怯む。そこにシャークが参戦する。

「連続シャークエナジーパンチ!」

シャークの連続電撃パンチが怯んでいたザウオの横腹に直撃する。

「油断はするなよ!」

ザウオはシャークに向かって熟成された悪臭ガスを放とうとする。嗅覚の鋭いシャークに悪臭は致命的なダメージを与える。

「まずい!」

シャークがそう思った瞬間、アナコンダが金色のリング状のエネルギーを投げ、ザウオの口に引っ掛けた。こうすればザウオは口を開けない。

「ありがとよ!」

シャークは非常に戦いやすくなった。悪臭ガスがなければザウオは大した強敵ではない。悪臭以外の攻撃手段は威力の低い物理攻撃しかないからだ。シャークは口を開き、背鰭を光らせ、青く太い光線を放つ。

「シャークサンダー!」

光線はザウオに命中し、その体を一撃で木っ端微塵にする。

「決まったぜぇ!」

シャークは決め台詞を放つ。ヒポポタマスたちは思わず拍手する。

「ありがとうよ。嬢ちゃんたちのおかげで楽に済んだぜ!」

「シャークさんも凄いよ!」

「怪獣が味方につくって‥なんだかすごく新鮮な気分!」

少女たちにとっての怪獣は悪の手先だったので、初めて見る正義の怪獣の戦いに胸をときめかせていた。

その後、アウレリアの癒しの風で周囲に残った悪臭は洗い流される。ヒポポタマスたちはシャークや隊員たちと一緒に処理を手伝い、共に汗を流した。


その様子を憎々しげな様子で空から見つめている男がいた。デイノ・ボーンだ。

「どういうことだ!なんであの小娘動物園がこの地球にいる!」

「僕ちんに言われても知りませんよデイノ様。」

テレスターが困ったかのように言う。

「あの時俺たちに散々恥をかかせやがって‥

サメもろとも叩き潰してやる!」

デイノはそう息巻くのだった‥













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