無能と追放された私の【最適化】スキル、実は国家レベルの超チートでした。今さら戻ってこいと言われても、もう快適な引きこもり生活を始めたのでお断りします
☆ほしい
第1話
「リディア・フォン・ヴァイスハイト!貴様との婚約を、本日をもって破棄する!」
玉座の間で、私の元婚約者であるアルフォンス殿下が甲高い声で叫んだ。
その隣には、これ見よがしに寄り添う男爵令嬢のエリザベラ嬢の姿がある。彼女は、今この国で最も注目されている【聖なる光】というスキルの持ち主だった。
私の罪状は、スキルが【最適化】という地味なものだったこと。
そして、国の発展に貢献できない役立たずだということ。それが、彼が私を切り捨てる理由らしかった。
「リディア、貴様のスキルはあまりにも地味すぎる。ただ物事を整えるだけの【最適化】など、我が国の未来には不要なのだ。それに比べてエリザベラの【聖なる光】は、人々の傷を癒し、作物の成長を促す奇跡の力。どちらが王妃にふさわしいか、言うまでもないだろう」
アルフォンス殿下は勝ち誇ったように言った。
周りにいる貴族たちも、クスクスと私を嘲笑っている。
「まあ、侯爵令嬢とはいえ、スキルが地味ではねえ」
「それに比べてエリザベラ様は、まさに聖女のようだ」
そんな声が聞こえてくる。
私は俯いて、悲しみに耐える令嬢を完璧に演じていた。
肩を震わせ、今にも泣き出してしまいそうな表情を作る。
しかし、私の心の中は、歓喜の嵐が吹き荒れていた。
(やった!やった!やっと婚約破棄してくれた!)
面倒な王妃教育も、窮屈な城での生活も、これで終わりだ。
これからは、誰にも邪魔されず、心ゆくまで引きこもり生活を満喫できる。
私は昔から、極度の面倒くさがりだった。
できれば家から一歩も出ず、本を読んだり、お茶を飲んだりして過ごしたい。
そんな私にとって、王族に嫁ぐことなど苦痛でしかなかったのだ。
「リディアよ、貴様のこれまでの功績に免じて、慈悲をかけてやろう。王国の辺境にある『忘れられた谷』の家を一つ、貴様に与える。そこで静かに余生を過ごすがいい」
「……はい、殿下。ご温情、痛み入ります」
私はか細い声で答え、令嬢らしく優雅に一礼した。
辺境の谷。素晴らしい響きだ。
誰も来ないような場所で、一人でのんびり暮らせるなんて、最高じゃないか。
アルフォンス殿下は、満足そうに頷いた。
彼は、私が深く傷つき、絶望していると信じているのだろう。
エリザベラ嬢も、憐れむような、それでいて優越感に満ちた視線を私に向けている。
茶番は早く終わってほしい。私は一刻も早く、理想の引きこもり生活を始めたかった。
こうして私は、役立たずの烙印を押され、王都を追放された。
用意されたのは、質素な一台の馬車だけだった。
御者以外に誰もいない、寂しい旅の始まりだ。
ガタガタと揺れる馬車の中で、私は窓の外を眺めていた。
どんどん遠ざかっていく王都の景色を見ても、何の感慨も湧いてこない。
むしろ、清々しい気分だった。
私の【最適化】スキルは、確かに地味だ。
戦闘ができるわけでも、派手な魔法が使えるわけでもない。
ただ、触れたり意識したりした物事の「最も良い状態」が分かり、それを実現できるだけ。
例えば、紅茶を淹れるなら、茶葉の最適な量、お湯の最適な温度、最高の蒸らし時間が分かる。
だから私が淹れる紅茶は、どんな高名な茶師が淹れるものよりも、常に最高の味と香りになる。
書類を整理すれば、最も効率的で分かりやすい配置が一瞬で分かる。
剣を研げば、刃こぼれせず、最も切れ味が鋭くなる角度が分かる。
食事を作れば、素材の味を最大限に引き出す調理法が分かる。
私はこれまで、このスキルで王城のあらゆる物事を、陰ながら最適化してきた。
殿下が使う武具の手入れも、城の食料庫の管理も、庭園の草木の手入れも、全部そうだ。
でも、誰もそのことに気づかなかった。
私がやったことは、あまりにも自然に、あまりにも完璧に行われたから。
皆、それが当たり前の状態だと思っていたのだ。
まあ、別に気づいてほしいわけでもない。
褒められたり、感謝されたりするのも、それはそれで面倒だから。
数日間、馬車に揺られ続けた。
そして、ようやく目的地である「忘れられた谷」に到着した。
御者は私を降ろすと、一言も交わさずに逃げるように去っていった。
よほど、こんな辺鄙な場所には関わりたくないらしい。
谷は、その名の通り、まるで世界から忘れ去られたような場所だった。
魔物の気配はなく、ただ穏やかな風が吹いているだけ。
鳥のさえずりと、葉擦れの音しか聞こえない。
資源は乏しいかもしれないが、引きこもるには最高の環境だ。
「さて、私の城はどこかな」
与えられたという家を探して、少し歩く。
すると、谷の少し開けた場所に、ぽつんと一軒の小さな家が建っていた。
木造の、古びた家だ。壁には蔦が絡まり、屋根も所々傷んでいる。
お世辞にも、侯爵令嬢が住む家とは言えなかった。
だが、私は少しもがっかりしなかった。
「うん、悪くない。むしろ、いじりがいがあって楽しそう」
私はゆっくりと家に近づき、その古びた扉にそっと手を触れた。
その瞬間、私のスキル【最適化】が発動する。
頭の中に、この家の完璧な設計図が流れ込んできた。
この柱は少し傾いているから、あちらにずらした方がいい。
この壁の木材は、あそこの木と入れ替えれば強度が上がる。
屋根の角度を少し変えれば、雨漏りの心配はなくなる。
窓を大きくすれば、もっと日当たりが良くなる。
そして、暖炉の位置をここにすれば、家全体が効率よく暖まる。
完璧だ。完璧な引きこもりのための城が、私の頭の中に完成した。
「ふふっ、楽しくなってきた」
私は思わず笑みをこぼした。
追放された悲劇の令嬢?冗談じゃない。
これから始まるのは、私だけの、私のための、最高の引きこもり生活だ。
まずは、この家を世界で一番快適な場所に作り変えることから始めよう。
私は扉をゆっくりと押し開け、新しい生活の第一歩を踏み出した。
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