再開した元恋人とセックスする百合

舌に残る嘘と貴女 ―渚―

私は鈴原渚、26歳の会社勤めのOLだ。

その日は給料日で、少し良いお酒でも飲んで自分を労おうと思って、近場のバーに入った。

少し奥で、常連と思われる人と、お洒落なバーには似合わない、スルメを炙っている、マスターかと思われる髭の男が喋っている。

場違い感を感じながらも、入ってすぐのカウンターに座って、まずは黒板に書いてあるマティーニを頼んだ。

少しして、出されたマティーニをチビチビと飲んでいたら、突然背後から懐かしい声で呼ばれた。

「なぎ?」

私の事をそう呼ぶ人物は、今まで一人しかいなかった。いや、彼女以外には呼ばせたくなかったのかもしれない。

「きょうちゃん…」

水無瀬響、私の元恋人だ。


きょうちゃんとの出会いは私が高校1年の五月、体調が悪くなって、保健室に行った時の事だ。

きょうちゃんは、その時高校三年生で、よく保健室でサボっていた。

学生まで体の弱かった私も、保健室に行くことが多かったから、きょうちゃんと必然的に仲良くなっていった。

そして初めて会ってから二ヶ月ほどした。

養護教諭が居ない日、私は授業中に体調が悪くなって、保健室のベッドで休んでいた。

ドアが開く音がして、少し息を潜める

「起きてる?」

私はなんとなく寝たふりをした。すると、顔に影がかかり、唇に柔らかい感触がする。

きょうちゃんだった。きょうちゃんがキスをしてきたのだ。

きょうちゃんの気持ちに気付いていた私は寝たふりを続ける。

私が起きている事に気付いたのか、きょうちゃんはそのまま話しかけてくる。

「ごめんね。最低だよね、私。ごめんね」

私はきょうちゃんを抱きしめた。

きょうちゃんも私も、無言のまま、哀しさを紛らわせるように行為に及んだ

私は処女だったが、その場で捨てた。後悔はしていない。きょうちゃんのそれも奪った。

その後私達は付き合った。

だんだんと私はきょうちゃんを下の名前で呼ぶようになり、きょうちゃんは私を「なぎ」と呼ぶようになった。

きょうちゃんとは、色々な事をした。

休みの日にはお泊まり会もしたし、クリスマスには一緒に過ごした後、日付が変わるまで求め合った。

私達は幸せの絶頂にいた。

けど、きょうちゃんが大学に進学して、会えない日が続くと、だんだんと私達は疎遠になり、お互いの為にとそれから一年ほどで別れた。


それが、きょうちゃんとの思い出。

だけど、私はまだきょうちゃんの事が好きだった。

そんなきょうちゃんに今、私は奇跡的な再開を果たしている。

一方、話しかけた本人は、反射的に呼んでしまっただけみたいで、何を話すか迷っているようだ。

「ひさしぶりだね、なぎ」

隣に座ってきたきょうちゃんは、昔と何も変わっていなかった。

少し高い背丈も、金髪で不良っぽいのに落ち着いた口調も。

「ひさしぶり、きょうちゃん」

「うん」

しばらくの沈黙が流れる。

「なぎはさ、あれからどう?」

どうとはなんだろう。

「えっと、一応大学卒業してから、デザイン会社で働いてる」

「ふーん」

きょうちゃんの期待とは違った答えのようだ。

「きょうちゃんはどう?」

「ぼちぼちだよ」 

「ぼちぼちかぁ」 

再度沈黙が流れる。

「なぎ、昔から全然変わってないね、」

きょうちゃんが私の髪を持ち上げなから言ってくる。

「きょうちゃんこそ、」

「ってことはまだ、なぎの好みのまま?」

「……かもね」

私も、まだきょうちゃんの好みのままだろうか。

「きょうちゃんはさ、まだ、私の事好き…?ほら、なんか、ほぼ蒸発みたいに別れたじゃん」

今、私はどんな顔をしているのだろう

「どうだろうね」

きょうちゃんは、私にキスをした。

私より先に来ていたみたいだから、お酒が回っているのかもしれない。

「きょうちゃん…」

私は受け入れたが、二度目のキスは、きょうちゃんが躊躇って出来なかった。


気まずい雰囲気が流れつつも、私達は離れられずに、何件かハシゴして、私はわざと終電を逃した。

「終電、無くなっちゃったね、」

我ながらテンプレのような台詞だ。

だが、それで良い。今は少しでも長くきょうちゃんと居たい。

「じゃあ、家、来る…?」

私は迷わずに行くと言うと、そのままきょうちゃんの家までついて行った。

「お邪魔します…」

「うん、いらっしゃい」

きょうちゃんの家は小さいアパートの二階の角部屋で、大学時代から引っ越していないようだ。

「シャワー、先にどうぞ。着替えは私のテキトーに着ていいよ」

「ありがとう」

きょうちゃんに言われたので、シャワーを浴びて、白いヨレヨレのTシャツと半ズボンに着替える。

「シャワーと服、ありがとう」

「あ、そんなのよりも良いのあったでしょ?」

「うーうん、これで大丈夫」

「そう…。じゃあ、私も行ってくる」

もう時計は夜の12時を回っていたので、先に私は布団の半分に寝た。

しばらく経つと、脱衣所からドアの開く音がして、ゆっくりと音を立てないようにきょうちゃんが布団に入る。

きょうちゃんは向こう側を向いて寝ていた。

しばらく後ろからきょうちゃんの事を見ていると、きょうちゃんがこちらを向く。

「あ、なぎ起きてたんだ」

「うん、ちょっと寝れなくて」

「そう…」

今日のきょうちゃんは少し消極的だ。

きっと、まだ恐れているのだろう。

だけど、私はもう我慢できそうにない。

「きょうちゃん、私はね、まだきょうちゃんが、その、好き…」

「…うん」

「だから、今からきょうちゃんにする事、嫌だったら私をぶって。きょうちゃんの嫌な事は、私もしたくないから」

言い終わると、きょうちゃんは静かに頷き、私はきょうちゃんにキスをした。

きょうちゃんは何も言わずに、受け入れてくれた。

だんだんと私達は熱を帯び、失った時間を取り戻すような、深くて甘いキスをした。

「なぎ、私もまだなぎの事好きだよ」

「うん」

嬉しかった。きょうちゃんも同じ気持ちでいてくれて、それだけで胸がいっぱいになった。

それから私達は自然と服を脱ぎ、抱き合った。

きょうちゃんの体はスタイリッシュなのに、柔らかくて、くっついているだけで気持ちよかった。

くっついているだけで良いのに、きょうちゃんは色々な事をしてくるから、どうしても淫らな声が出てしまう。

きょうちゃんは、昔とは少し違う抱き方をしてくれた。

優しくて、愛に溢れた抱き方を。

きっときょうちゃんもずっと私とこうしたかったのだろう。

ただ何故だろう、行為の途中、きょうちゃんが泣いているように見えたのは。


朝起きると、行為の途中で寝てしまった事に気付いた。

きょうちゃんを探すと、ベランダで煙草を吸っていた。

私に気付くと、まだ付けたばかりであろう煙草を消してくれる。

そんな気遣い一つ一つが、私の胸に染みる。

「おはよ、眠れた?」

「うん。ごめんね、途中で寝ちゃって、」

「いいんだよ。疲れてたみたいだし」

「うん、ありがと」

私は決断した。

またきょうちゃんと昔の関係に戻ること。

きっと、昔よりもっと大変になるだろう。

世間からの目も気になるだろう。

だが、それでいいのだ。数年越しに熱い夜を過ごした私達なら、それでも乗り越えられる。

きょうちゃんもそう思ってくれるだろう。

そして、私は一歩踏み出して言った。

「きょうちゃん、その、私達、もう一回付き合えないかな…?」

大丈夫だ。

きっと上手くいく。

そして、返ってきた答えは















「ごめん、私今、彼氏いるんだよね」

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