第10話 加奈と遭遇!

マックでセットを食べ、満腹になったのか、朝霧は幸せそうにニコニコしている。

その分、俺の財布の中が軽くなったんだけどな。


同年代の女子と二人で街中を歩くなんて初めてだ。

幼い頃は、妹と一緒によく遊んでいたんだけどな。


意識すると、少し緊張したきたぞ。

深呼吸、深呼吸……


黙ったまま前を向いていると、隣を歩く朝霧が俺の腕を突いてきた。


「美味しかったね」

「そうだろう。俺に感謝しろよ」

「うん……次は私が支払うね」


あれ? また二人でマックに来る流れになってないか?

これは話題の方向を変えておかないと。


「噂が収まるまではダメだろ」

「えー、もう噂になってるんだから、気にしなくて良くない?」

「遠藤先輩のこともあっただろ。そういえば公園で、先輩にキツ過ぎだぞ。付き合ってると勘違いした先輩も悪いけど。朝霧の思わせぶりな態度にも問題がある」

「それって、これからは九条とだけ遊べってこと? 九条がそうしろって言うならそれでもいいけど」

「そうじゃないだろ」


隣を歩く朝霧はニマニマと俺の顔を見上げ、俺の腕に自分の腕を絡ませる。

すると彼女の豊満な胸の感触が、胸に伝わってきた。

朝霧の体温が伝わってくるようで、緊張で前しか向けない。


「おい、離れろって」

「いいでしょ。ここは学校の中じゃないし」

「そういう問題じゃない。誰かに見られたらマズイだろ」

「前も後も、誰も歩いてないんですけど」

「うぅ……」


朝霧は周囲を見回し、ニヤリと笑う。

絶対にからかってるだろ。


「九条を困らせたくないから、今度は皆で遊びにいこうね」

「そうだな。俊司と慎を誘ってみるか」

「その時は輝夜と結衣も誘うね」


しばらく歩いて、俺はハッと気づき、腕を振りほどいて、朝霧から一歩離れた。


「おい、自転車を忘れてきたぞ」

「あー、そういえば乗ってきてたんだったー」


女子と二人という状況に舞い上がって、自転車を忘れるなんて……

またマックに戻らないとダメなのか。


俺が渋い顔をしていると、朝霧が俺の手を握ってきた。


「散歩してたと思えばいいでしょ。マックに着いたら、ジュースでも飲も」

「いや、またマックの寄るのは、ちょっと……」


店員が俺達の顔を覚えていたら、二人でイチャイチャしていると思われるかもしれない。

それはとても恥ずかしい……


ということで道を引き返し、マックに向かう。

店の前を通ると、自動ドアが開き、女子の声が聞こえてきた。


「あれ? お兄ちゃん……」

「あっ……加奈……」


マックから出てきた妹と俺は思わず見つめあう。

妹と一緒に現れた女子達は、「私達、帰るね」と言い残して、スーッと逃げるように去っていった。

すると朝霧が俺に手をギュッと引っ張った。


「二人は知り合いなの?」

「この前、話しただろ。俺の妹だ……」

「えっ……それは挨拶しなくちゃ!」


朝霧は俺の手を放し、スタスタと歩いて加奈の手を握る。


「私、朝霧結奈、九条とは同じクラスなの。今、二人でデートしていて」

「ストーップ! いきなり話を捏造するな!」

「え? 二人で? やっぱり、あの噂はホントだったの?」


加奈は桜蘭高校に通っている一年生。

つまり俺の後輩なのだ。


朝霧は校内でも有名な美少女ギャルだから、学校中に噂は広まっていると思っていたが、一年生達にまで知られていたとは迂闊だった。


俺は内心で焦っているのに、朝霧はニコニコと話しを続ける。


「ホントではないけど、現在進行形って感じ。それよりも九条の妹ちゃん、超可愛いー。私と友達になって」

「朝霧先輩とですか! 光栄です! 是非是非、こちらこそお願いします」


加奈は朝霧の手を握ったまま、ペコペコと会釈した。

その様子に、俺は思わず声をあげる。


「待て待て、勝手に話を進めるな」

「だって九条の妹ちゃんでしょ。だったら私の妹よね」

「どうしてそうなるんだよ!」

「お兄ちゃん、私が朝霧先輩と話してるの」

「それはわかってるけどさ……」

「黙ってないと、夕食、作ってあげないよ」

「はい……」


俺の家は両親共働きで、父親は単身赴任、母親は商業漫画家をしている。

最近は仕事が忙しいらしく、母さんは作業場兼事務所に泊まっていることが多く、ほとんど家に帰ってこない。

なので家事全般を加奈が担当してくれていて、俺の胃袋も妹に管理されている。

つまり俺は、加奈には頭が上がらない状態なのだ。


小さい頃は、お兄ちゃんお兄ちゃんと懐いてくれていたのにな……


引きつった表情で、俺が黙ると、朝霧がニマニマと微笑む。


「私も九条も家に帰るところなの、妹ちゃんも家に帰るのかな? もし、そうなら一緒に帰らない?」

「私のことは加奈と呼んでください。是非、先輩とご一緒させてください」

「うん、加奈ちゃん、可愛いー! 私のことは結菜って呼んでね!」


朝霧は加奈に抱き着き、妹は嬉しそうに笑っている。


俺には、そんな嬉しそうな笑顔を見せたことないぞ。

なぜか理不尽を感じる。


俺達三人は駐輪場で自転車に乗って、道路を走っていく。

前方で、朝霧と加奈は楽しそうに会話している。


しばらくして、俺はあることに気づいた。


「おい、この道って、俺達の家に向かってないか? 朝霧の家も同じ方向なのか?」

「加奈ちゃんと話してて、今日は九条の家で夕食を食べることになったの」

「はぁ? 俺は聞いてないぞ」

「当然でしょ。お兄ちゃんに相談してないもん。料理を作るのは私でしょ」

「それはそうだけどさ……」

「噂のことで結菜さんに迷惑かけてるでしょ。だから私がお詫びしないとダメじゃん」


加奈はなぜか誤解しているようだが、断じて、俺から朝霧に絡んではいないぞ。

いつも朝霧がからかってくるから、それが噂になっただけだ。


妹よ、もっとお兄ちゃんに優しくしてくれよ!

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