第6話 クラスの皆!

俺と朝霧の噂は、三日後には学校中の生徒達に広まっていた。

朝、学校に登校してみると、一年生の男女から指を差された。

校舎に入り、階段を上っていく途中、わざと肩をぶつけてくる男子もいた。

廊下を歩けば、見知らぬ女子の「地味な男子じゃん」という呟きが聞こえてきた。

行き交う生徒達も、俺の方を見て、ニヤニヤと笑ったりしている。


教室に入った俺は自分の席に座り、机に両腕を乗せて、突っ伏した。

他人に注目されることが、こんなに気持ち悪いとは思わなかったぞ。

悪目立ちしている仕方ないとはいえ、疲れる……


そのまま顔を埋めたままでいると、背中をトントンと指で叩かれた。

顔を上げると、俊司と慎が立っていた。


「宗太、有名人になったな」

「誰のせいと思ってるんだ」

「俊司、煽るな。宗太すまん、ここまで噂が広まるとは思っていなかったんだ」

「そうなんだよな。宗太ってモブだからさ、そんなに目立たないと思ってたのにな」


モブはお前達二人も同じだよな。

慎は謝罪しているが、俊司は頭を下げるつもりもないだろ。


すると前方の黒板の前にいた赤沢がツカツカと近づいてきて、俊司を睨む。


「昨日、皆で話し合ったわよね。黒沢と佐伯は、九条に謝るって言ってたでしょ」

「いや……顔を見たら、謝るのはイヤだなと思って……」

「ふーん、クラス女子全員から無視されてもいいの?」

「それだけはお許しを、勘弁してください」

「じゃあ、さっさと謝んなさいよ」


赤沢に促され、俊司は苦々しい表情をして、俺に頭を下げた。

すると同時に慎も姿勢を正して、深々とお辞儀をした。


「俺が悪かった。ごめん」

「俺も申し訳ない。つい調子に乗ってしまった」

「二人とももういいよ。それより朝倉、何かあったのか?」


俺の問に後からやってきた神楽が答える。


「九条君、クラスのグルチャ、最近覗いてる?」

「いや……そういえば見てなかったな」


桜蘭高校では、連絡網としてLINEのオプチャを利用している。

その他にも、クラス学生専用のオプチャがあるのだ。

担任の鈴ちゃんに知られたくないこともあるからな。


神楽の話によれば、昨日、朝倉の呼びかけで、クラスの皆がオプチャに集まったそうだ。

そして俺と朝霧の噂について話し合ったらしい。

そこで女子達から、朝霧が噂になるのは可哀そうという意見が出たという。

男子達からは、彼女の相手が俺ということが不満というコメントが多かったそうだ。

可愛い美少女との噂なら、男子であれば、自分と代われという気持ちは理解できる。

その男子からの意見を見て、女子達が憤慨したそうだ。

それからオプチャは混乱状態となり、結局、この騒動を起こした者達が悪いということで、全員の意見がまとまったらしい。

当然ながら、オプチャに入っていた俊司と慎は皆から問い詰められ、俺と朝霧に謝罪する流れになったという。


「あれ? 朝霧はオプチャにいなかったのか?」

「九条と結奈は噂の当事者でしょ。だからLINEに輝夜と相談して呼ばなかったの。参加しても気分は良くないと思ったから」


神楽はそう言って、おっとりと微笑む。

さすがはクラスのお姉さん的な存在、気遣いしてくれたんだな。


赤沢と神楽は、朝霧と仲がいいからな。

また妙な噂で、朝霧が誤解されることを二人は避けたかったのかもしれない。


俺達五人が話していると、教室の後の出入口から朝霧が現れた。

そして、俺達の方を見て、ニコニコと歩いてくる。


「集まってどうしたの? 輝夜と結衣って九条達と仲良かったっけ?」

「ううん、仲良くなんてしてないわ」

「その言い方って酷くないか。昨日もオプチャで散々、俺と慎を説教しておいて」

「皆に怒られることしてる黒沢が悪いんでしょ」


俊司の文句を、赤沢が一蹴する。

すると、神楽が手をパンパンと叩く。


「二人共、席に戻りましょ。もうすぐHRよ」

「それがいいな。俊司も席に行くぞ」

「チェッ せっかく集まったんだから仲良く皆で話そうぜ」


俊司は皆に声をかけるが、赤沢と神楽は自分の席へと戻っていった。

そして慎に肩を捕まれ、俊司も席に連行されていく。

その様子に、朝霧は不思議そうに首を傾げた。


「何かあったの?」

「実はな――」


先ほどまで五人で話していた内容を朝霧に説明する。

すると話を聞き終わったは納得したように頷く。


「九条との噂だったら消さなくて良かったのに」

「いやいや、朝霧も、学校中から変な目で見られるだぞ」

「そんなの慣れてるし。もしかすると九条と私が付き合って、噂が事実になるかもしれないでしょ」

「おいおい、教室の中で迂闊なことを言うなよ。また騒ぎになるだろ」

「それでいいんじゃない。私は全然気にしないし」


朝霧はニコニコと笑うが、本気なのか、冗談なのか、全くわからない。

屋上のこともあるから、妙に気になるじゃないか。


俺達二人が話していると、教室の後から俊司が大声が聞こえてきた。


「どうして宗太ばかり、女子に絡まれるんだよ! 俺だってここにいるんだぞ!」


その言葉を聞いて、教室の中は大爆笑となった。

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