第3話 俊司と慎の悪ふざけ!
俺の担任である久保田鈴音――鈴ちゃんは教師歴三年目の新米先生である。
身長も低く、小顔で胸も大きいため、多くの男子生徒達から大人気で、気さくに生徒達とも話してくれるので、女子達からも慕われている。
そんな彼女は去年、ここ私立桜蘭高校に赴任し、今年になって高校二年生の担任教諭になったのだ。
初めて自分が受け持つクラス。自然と学生達への指導に熱心になるのも頷ける話である。
特に俺と朝霧は厳しい。
俺達二人が問題児扱いされるのは、成績が振るわないだけではない。
時々、授業をサボっていることも鈴ちゃんにとっては厄介なことらしい。
高校一年の時からサボり癖のあった俺が、二年になった途端に更生するのは難しい。
それに朝霧がどう感じているかは知らないが、鈴ちゃんに怒られることについて、俺にはご褒美でしかない。
女子大生のような童顔でスタイルも良い若い大人の女性と一対一のひと時を過ごせるのだ。
思春期の高校男子として、年齢=彼女のいない歴の俺にとっては癒しでしかないと断言したい。
昨日は朝霧がプリントをやらずに居残りから帰ってしまったことで、彼女の分も俺は鈴ちゃんの説教を受けることになった。
職員室まで一緒に来た俊司と慎も同席となったが、これは二人の自業自得だ。
前日のことを考えながら自転車で学校へ向かう。
駐輪場に停めて、スマホで時刻を確認すると、午前九時二十八分。
教室に着く頃には一限目の授業が終わる頃だ。
目覚めた時には既に遅刻する時間だったので、このサボりは不可抗力である。
自分勝手な言い訳を考えながら校舎に入り階段を上っていく。
すると授業終了のチャイムが鳴り、科目担当の先生と遭遇しないように少し時間をずらして、俺は教室へと向かった。
ドアを開けて中に入ると、クラスの生徒達が、一斉に視線を向けてきた。
皆の表情が妙にニヤついているように見える。
教室の中の違和感に首を傾げながら、俺は自分の席へ向かった。
机の上に鞄を置いて椅子に座ると、背中をドンと叩かれた。
驚いて、後ろを振り返ると、俊司と慎が立っていた。
「宗太喜べ。昨日、朝霧とイチャついていたことをクラスの皆に報告しておいたぞ」
「なっ……」
「俺は止めたんだがな。皆に質問されると事実を言うしかなかった」
慎、嘘を言うな。
二人共、すごく楽しそうに笑ってるじゃないか。
昨日、鈴ちゃんに報告しなかったのは、クラスの皆に言いふらすつもりだったな。
二人が黙ったまま見過ごしてくれるとは思っていなかったから、予想できる結果である。
俺は大きく首を左右に振り、教室の中央を指さす。
「噂が広まって困るのは俺だけじゃない。朝霧に怒られても知らないからな」
「その点は大丈夫。彼女からはきちんと許可をもらったからな。宗太と噂になるならいいってさ」
「はぁー?」
あまりの驚きに、俺は目を見開き、慌てて教室の中を見回した。
すると視線の合った朝霧は、自分の席に座ったまま、笑顔で俺に向けて大きく手を振る。
「九条ー! 昨日は楽しかったね!」
「なんだかムカついてきたから、学校中に広めてやる」
「意義なし、俺も協力しよう」
俊司は悔しそうに表情を歪め、慎は目を細めて何度も頷く。
ヤバい、二人は本気だ。
「待て待て待て、落ち着いて話し合おう」
「いいだろう。それなら教えろ。昨日、朝霧に背中から抱き着かれていたよな。胸は大きかったか?」
「そんなこと、教室で言えないだろ」
「では、次の質問だ。胸の感触は柔らかかったのか?」
「黙秘する」
「黙るということは、しっかりと感触を楽しんでいたってことだな」
「刑事みたいな尋問口調はやめろ! 俺は無実だ!」
俊司に弄られ、俺は大声を上げてしまった。
すると周りで見ていた生徒達がクスクスと笑い始めた。
慎は胸ポケットから眼鏡を取り出し、サッと顔に装着する。
お前、視力いいだろ。
いつも伊達眼鏡なんて持ち歩いてないじゃないか。
「容疑者は口を割らないようだ。では証人を呼ぶしかあるまい」
「そうだな。おーい朝霧、ちょっと来てくれ!」
「いいよー!」
慎の言葉に続いて、俊司が大声で朝霧に呼びかける。
すると彼女はニコニコと笑い、椅子からピョンと立ち上がって、俺達の方へ歩いてきた。
教室にいる皆の視線が自然と俺達に集まる。
止めてくれ、こんなの公開処刑だろ。
誤解だ、冤罪だ、無罪だ、俺は朝霧にからかわれていただけだ。
脳内で盛大にパニックを起こしている俺の隣に来た朝霧は、可愛く首を傾げる。
「三人で騒いでたけど、私に何か用事?」
「昨日の居残りのことだ。宗太と何があったか詳しく話してもらいたい」
「えー、ちょっと恥ずかしいかも」
「なるほど、そういうことがあったんだな」
「ストーップ、ストーップ、証言を捏造しようとするな!」
俺が大声を張り上げると、朝霧は頬を膨らませて、唇を尖らせる。
「昨日は熱烈な告白をしてくれたのに、今日はそんな言い方するんだ」
「そんなこといつ言った!」
「九条、恥ずかしがらないで。私は九条の告白、きちんと受け止めてるよ」
「ちがーう!」
朝霧の言葉に、俺は両手で頭を抱え、席から立ち上がる。
すると、朝霧が目を伏せ、俺の胸に顔を埋めてきた。
「冷やかされたからって、そんなに怒っちゃダメだよ。皆、私達を祝ってくれてるんだから」
「ウガー! ノリノリで追いつめてくんなー!」
叫びながら体を藻掻いている俺を見て、クラスの皆も大笑いしている。
俊司と慎も腹を抱えて、涙を流して笑い転げている。
二人共、朝霧を巻き込むなんて卑怯だぞ!
昨日の居残りには、俺と朝霧しかいなかったんだから、彼女の肯定を皆が信じてしまうだろ。
どうやって、この場を収集するんだよ!
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