第23話 信じる者達

 「来い!平澤!!」


 「お、おう!!!」


 平澤は緊張した構えのままぎこちなく走り出した。滝の内側の道までの距離は約2m。本来は立ち幅跳びでギリギリのラインではあるが、彼の精神力もまたギリギリといったところである。


 「うわァァア!!!南澤!!ギリかも!!」


 蹴った。平澤は地表を思いっきり蹴った。跳躍距離はギリ十分。だが当然のように、平澤の顔面にマグマの滝が浴びせられる。


 「熱くない熱くない熱くない」


 南澤は黙っていた。熱くないかは確認するまでもない。平澤の頭部に付着したマグマは、まるで網で焼肉でも焼いているときかのような、香ばしい音と白煙を立てた。新品の雨傘が雨粒を勢い良く弾くかのように、マグマも小さな粒となって華麗に弾け飛ぶ。お分かり頂けただろうか?


 「平澤!いいよ〜!熱くないよ〜!」


 南澤は猫なで声で、まるで赤ん坊をあやすかのように、平澤に語りかける。


 平澤は体を丸め着陸態勢に入った。そして足を前方に大きく突き出す。そしてそのまま前に倒れ込んだ。無事に南澤が待つ滝の内側に来れたのである。


 「ね?熱くなかったしょ?」


 「あっっちいなオイ!!!」


 「やっぱダメか〜w」


 「ところで南澤!俺の髪どうなってる?!ハゲてねーか?」


 平澤は着地するなり、自分の頭部に手を当てた。マグマで髪が溶けて無くなっていないかを確認しているようだ。


 「平澤、大丈夫だ。毛根は無事だよw」


 「なんでーい。逆にハゲたら学校でネタにできたっつーのによお!異界から戻ってきたらハゲになってたっつってなw」


 2人はその場でゲラゲラ笑い込み、倒れた。

 

 「いや〜しかし南澤。マグマに飛び込めはさすがに無いわw」


 「まぁ結果良しじゃん、平澤。それよかそろそろこのステージ、クリアしたいな」


 「うむ」


 「まぁ何回も期待を裏切られてますけどね、私達」


 「南澤〜もう何時間になる?ここ来て」


 「軽く4時間くらいかな〜」


 「広島ぐらいまで行けそうですねぇ」


 2人はゆっくり奥へと進んでいく。どうやら鬼が追ってくる気配はない。

 

 「南澤〜4時間も宙に浮いてて疲れないのか?」


 「全然」


 「いや〜現実世界戻ったら一緒に焼肉でも食いに行こうな!」

 

 「そんな金ねーよw」


 「奢っちゃう!奢っちゃうよ〜w」





 ボゴォン!





 「「あ」」


 後ろから聴こえた懐かしい音色が2人の意識を急に異界へと呼び戻す。


 「南澤。そろそろ今回がラストトライなんじゃあないか」


 「平澤。その台詞、心の中で何回唱えたことか」




 「「信じて行こう!!」」




 2人は声を揃えると、走り出した。


 「南澤〜もう鬼には慣れたもんよ!」


 「平澤!特に障害の無い一本道とはいえ、初めての道だ。気持ち慎重に行こう」


 「OKです!」


 「過信は禁物だ!」


 2人の前の視界が拓けた。

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