第19話 失笑

 「南澤。ここに隠れて僕はやり過ごすぞ」


 平澤は小声で呟くと、じっと動かなくなった。


 「鬼さん来ちゃダメだぞ〜来るな来るな来るな来るな」


 鬼がこちら、鍾乳洞内部に向かって動き出した。


 「うォォォォ」


 鬼の右足が隙間からゆっくり見えたかと想うと、そのまま通過していった。坂を降りきり、湖に向かったようだ。


 「やった!やった!やった!やった!すごい!すごいぞ!」


 平澤は鬼をやり過ごすことに成功した。しばらくして南澤も姿を現した。


 「平澤。鬼は完全に湖に向かっていったことを確認した。しばらく後ろを尾行させてもらったわ。鍾乳洞の中で黒目かっ開いて血眼で私達を探してたぞ」


 「おーそれはおっかねえ」


 「平澤。アノ鬼が着ている藁でできた衣装みたいなヤツあるだろ?アレ藁だと想ってたが、近くで見ると剥いだ人間の皮膚みたいな色と質感だったぞ」


 「おい南澤。今更そんなこと言わなくてもいいだろ?ビビらせんな」


 「ああすまない。まぁ私の気のせいかもしれんしな」


 「おう。そろそろ出るとするかな。行くしかない」


 2人は恐る恐る隙間から抜け出した。


 「おっおっ行ける行ける」


 「わっ!」


 「うぉっ!ってやめろよ南澤〜w」

 

 平澤はようやく立ち上がった。


 「いや〜南澤。我ながら土壇場で奇策を思いついたモノだ」


 「この調子でまた必勝法も思いつくといいなあ」


 「ま〜その時はさっきみたく、またピンチになったときだろうけどねw」


 「たしかに。ピンチはチャンスやからの〜w」


 「まぁでももうピンチにはなりたくないけどね〜w」


 2人は地表に出た。彼らの目の前には鬼がいた。アノ桜の木の下だ。お互い見つめ合っている。


 「アノ鬼、いくらなんでもスタート地点に待機してんの早すぎだろ」

 

 「ほな行きますか」


 2人は走り始めた。鬼もしっかりと付いてくる。


 「南澤。今度こそブレイブロード行くぞ!もう地面の熱さにも慣れてきた頃合いだぜ」

 

 平澤は学習していた。走るというよりは幅跳びを繰り返している感覚だ。無意識に地面と足の平が触れる面積を減らし、熱さを軽減していた。


 「南澤!これも必勝法リストに加えといてもイイぞ〜w」


 「平澤。それは確実に勝てると想ったときにしよーよ。まだリスト入りは遠慮しとくわw」


 「近いが余裕!近いが余裕!」


 2人は鬼と一定の距離を保ちつつ、マグマの滝付近まで着ていた。脇道には蜘蛛だかサソリだか分かんねえ変な生き物たちが闊歩している様子が見える。


 「行くぞ!南澤!」

 

 「おうよ!」


 脇道に入った瞬間、平澤が足元の岩で豪快に蹴躓いた。


 「南澤。変な岩あったぞ!いってェェエー!」


 「おいおい。膝大丈夫か?!」


 「大丈(^o^)v!ってうわああああああ!!!転んでる場合じゃなかった!!」


 平澤の周りにアノ生き物達が群がり始めた。既に囲まれている。


 「南澤。ピンチは何だっけ?」


 「失笑。いや、必勝」

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