第18話 ピンチ

 「南澤。準備はよろしいか?よろしいな。では行くぞ!」


 平澤はそう声に出して自分自身に言い聞かせると、勢い良くドアを開けた。鬼がそれに気づく。鬼ごっこの熱い火蓋が切って落とされた。


 まずは桜の木からどんどん遠ざかることが当面の目標だ。


 「アッチッチ」


 見た目では分からないが、所々地面は高熱を帯びている。鉄板の上を走っているかのようだ。


 「アチ!声に出さずにはいられないっ!くそっ!」


 平澤は所々幅跳びも挟みながら、鬼との距離を一定に保つことに成功している。





 グググググググッッ!!





 「「お次は何だ??」」


 地震でも起きたかのように地面が微かに震えている。かと想えば、2人の後方から、鬼より速いスピードで盛り上がった地面が追跡してくる。


 「おい南澤。後ろから何か来てんな。ナニが来てる?」


 「分からん。トレマーかな、例えるなら」


 「ほう。そいつはヘビーだ!」


その得たいの知れない速いナニかは、2人の足元を通過し、前方で止まった。



 バグォオン!!



 「「あ」」


 トナカイさんだ。どうやら地面の下を進む芸当もできるらしい。地面から突如としてその姿を露にした。

 

 「平澤!危ない!!」


 「さすがに止まれない!顔面にぶつかる!」


 「それって角で貫かれるよりはマシか?」


 「ぬぅォォオ!!!」


 平澤はトナカイさんの眼前で反復横飛びを決めた。何とか激突することなく回避に成功する。


 「だがしかし、南澤。コースから逸れちまった。1回鍾乳洞入るぞ」


 「そうしよう」

 

 「危なぁあい!!」


 今度は鬼との距離がぐっと近づいてしまった。いずれにしても鍾乳洞に転がり込む他ないようだ。


 「トナカイさん。いつものオナラで何とか処理しといてくださいよ〜」

 

 2人は間も無くして鍾乳洞に転がり込んだ。鬼は中まで追っては来ない。


 「いきなり当初の作戦からは変更となってしまった訳だが、まだ生きている限りにおいては軌道修正可能だ」


 「だな」


 2人は湖を抜け、地表への出口までの上り坂を目指した。坂道の入口まで来たその時だった。


 ボツボツボツボツボツボツボツボツ


 「うわ!」

 

 「え?」


 2人の眼前の岩壁が今にも陥没しそうになっている。否、どちらかと言うと壁がグツグツ煮えたぎり、穴が開きそうだ。


 「平澤。恐らくアレは鬼が壁を突き破ってくる前の予備動作だ。一気に進むぞ。時間がない」


 「南澤。僕も同じこと想ってたわ」


 「あーやっぱまずいかも!無理かも!」


 2人が通過するよりも前に、鬼が出てくる。正面から来られたら彼らになす術はない。


 「これは、、、もう。なす術なす!」


 「いやあるぞ、南澤」


 そう言うと平澤は脇の溝に体を屈めて押し込んだ。

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