第17話 道

 「開っ、けェェエ!!!!」


 「南澤!僕はキミを信じるよ!僕たち一蓮托生だからさ!」


 走った。平澤はとにかく走った。扉に激突する覚悟ぐらいはできていた。彼が最も拒絶したのは、南澤を信じないこと・自分を信じないこと・鬼に捕まることの3点であった。


 平澤の右足がシェルターの扉の隙間に入った。彼は気持ち体を横にして、滑り込ませた。そして急ブレーキを踏み、今度は南澤が扉を閉めるのに手を貸した。


 「南澤!サンキューな!マジで!閉めるの手伝うわ」


 「ありがとう。平澤」


 「鬼さん。さよなら。バイバイバイバイ!!」


 眼前に迫ってくる鬼に対して2人は全力で扉を閉めた。溶岩でできた固い扉は何者をも寄せ付けることはなかった。鬼は恐らく扉に衝突すること無く手前で止まり、諦めてどこかへ立ち去ってしまったようだ。


 「助かった~。さすがにアノ鬼でもこの扉は開けまいか」


 「しかし平澤。ハリボテシェルターかと想っていたが、中はとんでもなく広いぞ」


 「ああ。異界ってすんごい」


 溶岩でできた小屋、大きなテントのようにも見えるこのシェルターは直径5mほど、大人6人が定員ぐらいの外観をしている。高さも3m無いぐらいだ。


 だが入った瞬間、まず2人はとんでもなく高い天井を見上げる。10mぐらいはあろうか。中にはイス・机・ベッド・棚・観葉植物等々、数多の家具が並んでおり、床はえんじ色の絨毯で覆われていた。内装は小屋というより豪邸か、あるいは豪華なホテルのロビーといったところだ。


 「南澤。奥行きは広い。とりあえず奥へと進んで行こう」


 「ああ。ところで平澤。さすがに今回の鬼は一筋縄ではいかんぞ。攻略法を考えねば」

 

 「たしかになー。さすがにがむしゃらに走るだけでは今回は勝てんからのお」


 「お。出口だ。まずは窓から外の様子を伺うとしよう」


 「あーね」


 「どうした南澤?」


 南澤の視界に鬼を捉えた。ついでに桜の大木も捉えた。つまりスタート地点付近に戻ってきたことを意味する。鬼はこちらには気づく様子はない。NPCみたく、桜の木の下でじっとしている。


 「まーた振り出しかよ~」


 「平澤。アンタ、また『覚悟』決められるか?」

 

 「この平澤には『覚悟』がある」


 「よし。私達がまだ行っていないエリアに行こう。それこそ正に真の勇者の道だ」


 「いいね~平澤。で?そのブレイブロードはどこにあるのさ」

 

 「マグマの滝の脇の細い道を通過する!」


 「でも断る」


 「ナニっ!」


 「だってよー南澤。あそこはたしか変な生き物が闊歩してんだぜ。蜘蛛だかサソリだか分かんねえヤツ。ありゃあ絶対に猛毒だ。ミスったらマジでゲームオーバーだぜ」


 「ああ。だがやるしかない。試した道を除外していって残った道が、例えどんなに険しい道でも、それが真実へと通ずるたった1つの道なんだ」


 「たしかに。然らずんば、あに進まざるやえんや。か」

 

 「そう言うこと!英語の次は漢文かよw」


 「とにかくやるしかねえ。もしかしたらあん時のトナカイさんよろしく、化物同士で勝手に喧嘩してくれるかもしんねーしな」


 「たしかに!それが理想だな。これにて閉廷。このステージ、もろたでクリア」


 「あの~ちなみにもしその道の先に出口が無かった場合は?」


 「その時は来た道を戻るか、マグマを泳ごう」


 「いや〜空飛んでる南澤が言うと説得力あるなーおい」


 「カチコミブッパは私達の常套句ですから」


 「たしかにな」


 そう言うと平澤はドアノブに手を掛けた。『覚悟』を胸に。

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