第16話 絶体絶命

 ブワォオオン!!!


 「「お次は何だ??」」


 屁だ。トナカイが非常に大きな屁、ガスを吹いた。火山の山頂のような明るいオレンジ色の空気が勢いよく射出され、辺りに充満していく。


 そして高速でナニかが2人を横切っていった。その正体は、先ほどまで彼らを追い回していた鬼だ。理解するのに一瞬戸惑う2人。どうやら爆心地の近くにいたため、その突風に巻き込まれて吹き飛ばされたようだ。そのまま脇のマグマまでフェードアウトしていく。


 2人は一瞬の硬直の後、同時に声に出してゲラゲラと大爆笑し始めた。彼らの不安をも吹き飛ばす凄まじいパワーだったのである。


 「南澤。鬼が消えてったなww」


 「ああ。オナラが消し飛ばしてくれたわwトナカイさん。先程は役に立たなそうとか言ってスマンかったw」


 「アノ鬼め。ざまぁねーなw鬼が僕を横切ってった時、時止まったかと想ったわw」


 「私が時を止めたwヤツが屁をこいた時点でなw」


 「イヤーまじで絶体絶命だったから助かったわ」


 「何はともあれ、これで時間は稼げたというわけだ」


 「うむ」


 「でだ。南澤アニキ。このトナカイさん、バラしやすかい?!」


 「いや、喧嘩は良くない。それにオナラだけであのパワーだ。そもそも私達に勝ち目は無い」


 「だよな南澤。一方的にお礼だけ言って、とっととずらかるとしよう」

 

 2人はおっかなびっくりな逃げ腰で、トナカイの横を通過した。トナカイは特にこれと言った動きは見せない。彼らは更に未開の奥地へと進んで行く。


 「なあ南澤。マグマの量、増えてってねーか」


 「でも戻っても鬼とぶつかるかもしんねえしなあ。いまはせっかくあのトナカイさんが時間稼いでくれたから前に進m

。あ」


 「え?」


 南澤の視界に鬼を捉えた。大した時間稼ぎにはなっておらず、こちらに向かって一直線に向かってくる。マグマの中を掻き分けるようにバタフライで向かってくる。ヤツもまた、熱さに耐性があったようだ。鉈を持ちながらのバタフライは、さぞかし抵抗が強かろうなのだが、そんなものはお構いなしだ。明らかに現実世界の物理の法則に反している。


 「走れ!平澤!!」


 黄金スニーカーまでとは言わないが、物凄いスピードで鬼は2人に迫ってくる。

 

 「アベバチョチョ!!!」


 「奇声を上げている場合じゃあないぞ、平澤!!速く!!!」


 「チカチカチカチカ近い!!!!」

 

 「どうする?、またあのトナカイさんのオナラで吹き飛ばしてもらうか?」


 「そんな余裕無い!!」


 平澤は完全にパニクっている。


 「どうすればいい?どうすればいいんだ!」


 「ダメだ!ダメだ!ダメだ!僕もうギブです!リタイアします!」


 「平澤!朗報だ!!もう少しこのまままっすぐ行くと、シェルターが見えるぞ!!!」

 

 あくまで現実世界で例えるとシェルターなのだが、金属製の近代的なソレではなかった。ステージの環境に溶け込むかのような溶岩でできた小屋だ。大きなテントのようにも見える。南澤がシェルターと形容したのは入口が特にごつごつとして見えたのと、2人で逃げ込みたい一心での比喩であった。


 「平澤。先に行って入口観てくるわ」


 「頼んだ!」


 南澤はグングンとスピードを上げて前進していく。そして扉にたどり着いて一言。


 「開けゴマァァア!!!」


 南澤は宙に浮いた状態でも踏ん張っていることがよくわかる。頑丈そうな扉が少し、また少しと右に開いていく。


 「平澤!こいつマジ固ぇわ。とにかく気にせず突っ込んでこい!必ず私が開ける」


 5m前方にはまだ扉が開ききっていないシェルターと南澤。5m後方には自身より動きの速い鬼。平澤は絶体絶命であった。

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