第11話 必勝法 後編

 「行くぞ、南澤!」


 そう言うと平澤は右足を突き出し、一気に左ターンを決めた。現実世界のシャトルランではターン前にしっかり減速することが重要だが、ここは異界だ。ましてやこの状況。彼は一切、力を緩めることはなかった。


 しかし非情にも黄金スニーカーの輝きは、ターンした瞬間から失われ始める。それでもなお力強く走り続ける。


 「「『覚悟』が道を!!切り拓くっ!!」」




 、、、。




 一瞬の沈黙のあと、再び黄金スニーカーが力強く光り始めた。


 「「うしっ!!」」


 「だが平澤。分かってると思うが、本当の『覚悟』はこれからだっ!」


 「上等だ!」


 そう言うと平澤は一直線に鬼の元へと突っ込んで行った。鬼も全く速度を緩めるつもりはないようだ。


 「南澤!ここからはガチで、一か八かだ!一緒に腹くくってくれよっ!」


 『生命の分かれ道』の道幅は150センチほどしかない。普通に考えれば慣性がついている両者は衝突する。このスピードで突っ込むだけで、鬼が持っている鉈で大怪我は間違いなしだ。異界だから確証はないが、想像を絶する悲惨な末路を迎えるに違いない。


 「シャトルランってよ〜本来僕は得意じゃあないんだ。そもそも持久走は苦手だし。だがしかし。今度のコレはどうかな?」


 平澤がそう呟くと、彼は今度は反復横飛びの要領で、鬼を避けた。非常にギリギリである。

 

 「反復横飛びだけはスポーツテストでも超得意なのさ!卓球部の練習でめちゃくちゃやらされてるからな。今回は相手が悪かったな!小鬼ちゃん」


 だがまたしても非情にも黄金スニーカーは輝きを失った。そしてそれはもう決して戻ることはない。平澤はそれを心で理解した。


 「南澤!あとはこのまま、がむしゃらにあのドアに突っ込むだけだ」


 木製の古びたそのドアは、異界に来たときのドアにそっくりだ。もしかしたら現実世界に戻れるかもしれない。そんな微かな希望を、2人は抱いていた。


 「平澤。私はここらでいつものやつ、やっときますよ」


 「南澤!?何のことだ」


 南澤は平澤を置き去りにするようにグングンとスピードを上げて前進していく。平澤との距離は10m以上だ。


 そしてドアにたどり着いた南澤が一言。


 「ドアを開けて差し上げる〜」

 

 甲高いすっとんきょうな声色だ。


 「ハリポタ2のダズリーのモノマネか!渋いねぇ。まったくもって渋いねぇ!!僕でなきゃ見過ごしちゃうよ」


 「我が名は渋井丸拓雄。略して、しぶたく〜へへへ」


 2人は大爆笑である。開かれたドアからはアノ時と同じ、強く眩しい光が放たれ、その先を見ることはできない。


 「おい!おいおい!うぉい!!そんなのありかよ!!ざけんな!」


 平澤が後ろを振り返ると、鬼の全身が黄金色に光り始めた。徐々にスピードを上げ、平澤との距離を詰めていく。


 「こいつはマズイ!急げ平澤!!」


 「わーってる!こう見えて50m走、7秒切ったことあるんだぜ!僕は!」


 そう言うと平澤も徐々に加速し始めた。ただ鬼の加速の方が早い。


 「頼む平澤!突っ込んでこい!突っ込んでこい!」


 「不安か?南澤。言っとくが、これでも僕は加速してるんだぜ!異界はどれだけ長く全力疾走しても、息が上がんねーからな!止まらなきゃ捕まらない」


 だが異界もそこまで甘くはない。鬼との距離は2mを切ろうとしていた。鬼が持つ鉈の射程距離内に、平澤が入るのは時間の問題だった。






 、、、そして勝負は決した。

 





 平澤の左足がドアから放たれる光に触れた瞬間、鬼は消滅した。両者の距離は僅かに50cmほどだった。


 「「勝った!!この鬼ごっこは俺達の完全勝利だ!!」」


 2人は笑顔で光に包まれに行った。

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